虎穴02 獲物の所在の行方

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 佐伯は、紗栄子の動揺を見逃さず、一気に追い詰める。 「山科所長。あなた、伊織さんのご両親が遺した遺産を使い込みましたね?」 「………っな」  紗栄子は、言葉を詰まらせる。  そんな紗栄子の前に、佐伯は調べ上げた調査書を差し出した。 「伊織さんをスカウトするにあたり、調べさせていただきました」  そこにあったのは、伊織が受け継ぐはずだった遺産の全て。  紗栄子の顔がみるみる青くなる。 「あなたは、伊織さんが未成年なことをいいことに、彼女のご両親が遺された遺産を使い込み、さらに、この紹介所でも、伊織さんを飼い殺しにしている」 「………か、飼い殺し、なん、て……そんな」 「いいえ、飼い殺しです。彼女は、この紹介所の指名ナンバーワン。こちらは、売上の3割が従業員の取り分とのこと。でも、彼女の給与額は、その他の職員とそう変わらない。とても不可解です」 「…」 「そちらも調べさせていただきました。あなた、彼女の取り分を、随分ピンハネしてますね」 「…」  さらに伊織に渡すべき、歩合を自分の懐に入れていた。  その事実も、容赦なく佐伯から事実を畳みかけられて、  紗栄子は、咄嗟に反論できなかった。 「もう散々搾取したんです。充分でしょう?」 「……伊織は、私の、姪です……から」 「姪だからといって、何をしてもいいと?」 「…」  佐伯は、弱った相手を、さらに容赦なく止めを刺していく。 「これ以上の搾取は、うち()が許さない。伊織さんを渡してもらいます」 「…それは私も困りますっ!伊織がいないと…」 「あなたの都合など知りません。この紹介所が営業する範囲はすべて、橘のシマの中。今後、橘の街で営業が出来なくなりますよ?」 「……っ」  佐伯は、明らかな脅しをかける。  紗栄子は当然、橘も知っている。 「それでも、すぐには無理です。今月末までは、すでに依頼が入っていますから…」 「……では、今月末まで待ちましょう。伊織さんは、その日でこちらを退職。それでよろしいですね?伊織さんへは、こちらからお伝えします。くれぐれも余計なことを言わないように。いいですね?」  佐伯の妥協案に、紗栄子はついに、 「………はい、承知しました」  そう言って、伊織を手放すことに同意した。 「では、一応、移籍金の話をしましょう。こちらもタダでとは言いません」 「…はぁ」 「移籍金は1億。それでよろしいですか?」 「えっ……はい、結構です」  佐伯は、淡々と条件を告げていく。  移籍金の額に目を輝かせ、即答する紗栄子。  しかしそれでも、金蔓の伊織を手放す事への抵抗が滲む。  それも佐伯は、先手を打ち容赦なく脅し、折っていく。 「うちの社長は、あなたの伊織さんへの仕打ちに、とても憤慨しています」 「…っ」 「徹底的に潰してこいと言われましたが、それは私が宥めておきました」 「…」 「それで、あなたが、これまで伊織さんから搾取した額は、8年間でおよそ5,500万円」 「そこまでは…」  紗栄子は、金額に抵抗してきたので、佐伯は新たな資料を差し出す。 「これは、あなたが伊織さんから搾取した額です。確認してください」  そこには、伊織の両親から引き継いだ遺産の額。  これまで伊織が指名で得た売上。  そして、  そこから伊織が本来、受け取るべき額が事細かに記載されていて、  紗栄子はその数字を見て、思わずその資料を握りつぶしそうになった。  こんな完璧な数字、どうやって調べたの!?  その数字は、紗栄子が見てもわかる、  限りなく正確な数字だった。
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