2042人が本棚に入れています
本棚に追加
佐伯は、紗栄子の動揺を見逃さず、一気に追い詰める。
「山科所長。あなた、伊織さんのご両親が遺した遺産を使い込みましたね?」
「………っな」
紗栄子は、言葉を詰まらせる。
そんな紗栄子の前に、佐伯は調べ上げた調査書を差し出した。
「伊織さんをスカウトするにあたり、調べさせていただきました」
そこにあったのは、伊織が受け継ぐはずだった遺産の全て。
紗栄子の顔がみるみる青くなる。
「あなたは、伊織さんが未成年なことをいいことに、彼女のご両親が遺された遺産を使い込み、さらに、この紹介所でも、伊織さんを飼い殺しにしている」
「………か、飼い殺し、なん、て……そんな」
「いいえ、飼い殺しです。彼女は、この紹介所の指名ナンバーワン。こちらは、売上の3割が従業員の取り分とのこと。でも、彼女の給与額は、その他の職員とそう変わらない。とても不可解です」
「…」
「そちらも調べさせていただきました。あなた、彼女の取り分を、随分ピンハネしてますね」
「…」
さらに伊織に渡すべき、歩合を自分の懐に入れていた。
その事実も、容赦なく佐伯から事実を畳みかけられて、
紗栄子は、咄嗟に反論できなかった。
「もう散々搾取したんです。充分でしょう?」
「……伊織は、私の、姪です……から」
「姪だからといって、何をしてもいいと?」
「…」
佐伯は、弱った相手を、さらに容赦なく止めを刺していく。
「これ以上の搾取は、うちが許さない。伊織さんを渡してもらいます」
「…それは私も困りますっ!伊織がいないと…」
「あなたの都合など知りません。この紹介所が営業する範囲はすべて、橘のシマの中。今後、橘の街で営業が出来なくなりますよ?」
「……っ」
佐伯は、明らかな脅しをかける。
紗栄子は当然、裏の橘も知っている。
「それでも、すぐには無理です。今月末までは、すでに依頼が入っていますから…」
「……では、今月末まで待ちましょう。伊織さんは、その日でこちらを退職。それでよろしいですね?伊織さんへは、こちらからお伝えします。くれぐれも余計なことを言わないように。いいですね?」
佐伯の妥協案に、紗栄子はついに、
「………はい、承知しました」
そう言って、伊織を手放すことに同意した。
「では、一応、移籍金の話をしましょう。こちらもタダでとは言いません」
「…はぁ」
「移籍金は1億。それでよろしいですか?」
「えっ……はい、結構です」
佐伯は、淡々と条件を告げていく。
移籍金の額に目を輝かせ、即答する紗栄子。
しかしそれでも、金蔓の伊織を手放す事への抵抗が滲む。
それも佐伯は、先手を打ち容赦なく脅し、折っていく。
「うちの社長は、あなたの伊織さんへの仕打ちに、とても憤慨しています」
「…っ」
「徹底的に潰してこいと言われましたが、それは私が宥めておきました」
「…」
「それで、あなたが、これまで伊織さんから搾取した額は、8年間でおよそ5,500万円」
「そこまでは…」
紗栄子は、金額に抵抗してきたので、佐伯は新たな資料を差し出す。
「これは、あなたが伊織さんから搾取した額です。確認してください」
そこには、伊織の両親から引き継いだ遺産の額。
これまで伊織が指名で得た売上。
そして、
そこから伊織が本来、受け取るべき額が事細かに記載されていて、
紗栄子はその数字を見て、思わずその資料を握りつぶしそうになった。
こんな完璧な数字、どうやって調べたの!?
その数字は、紗栄子が見てもわかる、
限りなく正確な数字だった。
最初のコメントを投稿しよう!