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彪翔と三人で本家へ帰ると、
上がり框で彪雅がそわそわしながら待っていた。
「おかえり伊織。彪翔もよく来たな」
そう言って、彪雅は彪翔の頬にそっと触れた。
「彪雅さん、可愛いでしょう?」
「そうだな…」
爺虎夫婦がなかなか彪翔から離れないので、焦れた彪仁が怒鳴る。
「おい、伊織が疲れるだろう。早く退け!」
「ああ、すまん」
ようやく屋敷に戻った伊織たちだった。
彪雅の部屋には、ベビーベッドがあった。
「あの…」
「ああ、あれ?ここだけじゃなくて、伊織ちゃんの部屋と、彪仁の部屋、食堂にも。あとは…」
翠は、伊織の動線上のあちこちに、ベビーベッドを設置した。
「伊織ちゃん、私もそうだったけど、子育てはここでしなさい。ここには沢山の人手があるから」
「いいんですか?実は、少し不安だったんです。お言葉に甘えてもいいでしょうか?」
「もちろん。伊織ちゃんはよく分かってるから心配ないけど、不安は尽きないもんね。利用できるものは利用して?」
「ありがとうございます、お母さん」
こうして、伊織たちは子育てのため、しばらく本家で過ごすことになった。
彪翔は、おとなしいというより、肝の据わった子供だった。
たくさんの大人たちにも物おじせず、意思表示をはっきりと示した。
それでも、母親の伊織には甘えたで、
彪仁といる時は、特にべったりと張り付いていた。
「彪翔、伊織は俺のものだからな?」
「もう、彪仁さん。張り合いすぎです」
伊織は窘めるが、伊織の腕の中の彪翔は、
明らかに彪仁を挑発するような視線を向けていた。
「伊織、彪翔は…」
「彪仁さん」
伊織は尚も食い下がる彪仁を嗜め、
「彪翔。今日は、ばばのところにお泊りだよ」
そう言うと、伊織は彪仁を残し、彪翔と一緒に部屋を出ていった。
しばらくして、一人で戻ってきた伊織は、そのまま立ち尽くしている彪仁に歩み寄り、その腕で彪仁をくるりと囲った。
「彪仁さん、心配しなくても大丈夫ですよ?たとえ彪翔が狙ってるとしても、すでに根底からありえませんから」
そう言って、彪仁の耳元に唇を寄せて、
「私はすでに、彪仁さんのものですからね?」
伊織はそう囁き、そのまま彪仁に擦り寄った。
□◆□◆□◆□
伊織は、彪翔を連れて翠たちの部屋へとやって来た。
「お母さん、伊織です」
「はーい」
翠がすぐに顔を出す。
「すみません。今日彪翔を預かってもらえますか?」
「いいわよ。彪仁が爆発した?」
「はい。彪翔と張り合ってしまって…」
「全く…。橘の男どもはみんな一緒ね」
「…?」
「彪雅さんも同じだったってこと。まぁ…彪仁と私の関係は少し違ったけどね…。彪翔はこっちで預かるから、彪仁のケアをしてあげなさい」
「はい、お願いします。おやすみなさい、お母さん」
「おやすみ。彪翔、ママにおやすみーって」
彪翔は、伊織にキリッとした視線を向け、見送った。
部屋に戻る道すがら、伊織は、困ったものだと考えながら、
彪仁の機嫌をどうやって直そうか考えながら、
彪仁の待つ部屋へ戻っていったのだった。
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