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子育てもひと段落着き、彪翔は3歳になった。
そんな彪翔は、一般の集団生活に馴染ませるため、この春から園に通う。
園では、組の中では学べない事を、沢山学ぶことができる。
伊織は、以前仕事で関わった事のある、この園に通わせたいと思っていた。
「ここの園は、教育内容が凄いんです。半年ほど給食関係で関わったことがあるんですけど、学校に上がるまでの教育だけでなく、食育にも力を入れていて、何より、どろんこ遊びが出来るんです!!」
彪雅夫婦と彪仁の前で、園の素晴らしさを力説する伊織だった。
今日も彪翔は、伊織に連れられて園に通う。
涼の運転する黒塗りの中で、
「今日も頑張っておいで彪翔」
「うん、がんばる。いおりもがんばって」
「分かった。彪翔に負けないように頑張るよ」
「ん」
園に到着すると、3人で降りて入り口まで向かう。
すると、園のほうから恰幅のいい、エプロン姿の先生がやって来た。
「彪翔くん、おはようございます」
「えんちょーせんせい、おはようございます」
「はい、元気なお返事ありがとう。今日も彪翔くんが一番だよ。もうすぐ皆が来るから、先生と待っていようね」
「はい」
園の子供たちは皆一般人だ。
なので伊織は、自分たちが他の子どもたちに接触することを避けた。
伊織は園に通わせるにあたり、彪翔を普通に育てたいと思い、
園に、自分の考えを伝えていた。
「私どもは確かに『橘』の人間ですが、彪翔はまだ『橘』と関わるかどうかは決まっていません。なので私は、将来のために、彪翔に選択の幅を与えたいと思っています」
「そうですか」
「はい。以前、こちらにお仕事でお世話になった時、園の教育方針が素晴らしく、自分の子供を是非、通わせたいと思っていました。こちらには、彪翔を他の子どもたちが来る前と、帰った後に送迎したいと思っています」
この園では、すべての子供たちが送迎バスで通っている。
本当は、彪翔もバスで通わせたいのだが、それはさすがに無理がある。
なので、その時間の前後に伊織たちが送迎すれば、
他の子どもとの接触を避けられると考えた。
「そこまで考えていらっしゃるのですね」
「はい。是が非でも、こちらに彪翔を通わせたいものですから」
園長は伊織の配慮を聞き、暫く考えて、
「分かりました。お引き受けいたします」
「ありがとうございます。園長先生」
こうして彪翔は、幼稚園デビューを果たすことになった。
□◆□◆□◆□
始まった、彪翔の幼稚園での生活。
園での彪翔は、やはりしっかりした子供だった。
「あきとくん、うんどうじょうでサッカーしよう!」
「わかった。いく」
屋敷で大人たちと暮らしている彪翔は、どの子にも同じように接する。
そして、他の子ども達とあっという間に打ち解けて、
園ではすっかり人気者になっていた。
そんな中、親の仕事の関係で、中途で女の子が入園してきた。
中嶋夏鈴(なかしまかりん)
その名前に負けない、とても可愛い女の子。
「…」
彪翔は、教室に入ってきた夏鈴から、目が離せなくなった。
可愛い姿を目で追っていたその時、夏鈴と彪翔の視線が重なる。
彪翔は、夏鈴の栗色の瞳に釘付けになった。
「はーい、今日は新しいお友達です。みんな、仲良くしてね」
「「「「「はーい」」」」」
その日彪翔は、夏鈴にべったりと張り付き、一日中一緒に過ごした。
彪翔の初恋。そして、彪翔の唯一。
彪翔の恋の行方は、また別のお話…。
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