虎穴13 大物な小虎

4/9
前へ
/110ページ
次へ
 今日も伊織は、園の子供たちが帰った頃を見計らい、彪翔を迎えに行った。  すると、今日は彪翔の他にもう一人子供がいた。 「園長先生」  伊織は園長に挨拶をしようと声を掛けると、 「ああ、橘さん」 「今日もお世話になりました。ところで、あの可愛い女の子は?」 「あの子は中途で今日、入園されたお子さんです。ご両親が共働きなので、特別にお預かりしています」 「そうなんですか…」  伊織は、園長と話しながら彪翔の様子を眺める。  彪翔は、その子と打ち解けたように会話をしていた。  可愛く笑う夏鈴に、彪翔が子どもとは思えない、  とても柔らかい表情を見せていた。 「ねぇ…涼、彪翔の表情が…何と言うか、彪仁さんの表情に似てる気がする」 「そうですね。あれは若が、伊織さんを慈しむときの表情ですね」 「うん、私もそう思う。彪翔、あの子が好きなのかな…?」 「やっぱり橘さんにも、そう見えますか?」  伊織たちの会話に、横から園長も参加する。 「やっぱりって…園長先生?」 「あの子は、中嶋夏鈴ちゃんっていうんですけど、今日みんなに紹介したら、いつもはみんなの中心にいるような彪翔くんが、今日は夏鈴ちゃんにべったりで。ほかの子たちを寄せ付けないんです」  彪仁の話を聞いているようで、伊織は苦笑いを浮かべ、 「…はは、すみません。喧嘩とかはありませんでしたか?」 「それは大丈夫です。彪翔くんに突っかかる子はまずいません。うちの園の頂点は、間違いなく彪翔くんですから。でも彪翔くんは、それをひけらかしたり、傲慢な態度を取ったりしないので、皆から一目置かれ、人気があるんだと思います」  そんなやりとりをしていると、彪翔が伊織たちに気が付いた。 「いおり」  彪翔は、その女の子の手を引いて伊織の元へとやってくる。 「迎えに来たよ、彪翔。帰ろうか」 「いやだ。かりんのおむかえがくるまで、のこる」 「そっか。こんにちは、夏鈴ちゃん。夏鈴ちゃんのお迎えはいつ来るの?」 「5じに、ママがむかえにくるって、いってました」  あと3時間あるか…。  そう考えた伊織は、お迎えを待つついでを思いつく。 「そう、分かった。園長先生、調理場をお借りしてもいいですか?」 「ええ、構いませんよ」 「ありがとうございます。涼、屋敷からこの材料を持ってきてくれる?」 「はい」  伊織は涼にメモを渡しながら、伝言も伝える。 「それと、5時過ぎまで戻らないことも伝えておいて」 「分かりました」  涼は、指示を受けて本家に戻っていった。 「彪翔えらいね。夏鈴ちゃんをしっかり守ってる。だから今日は、ここで彪翔の好きなどら焼き作るよ」 「ほんとに!?」 「ほんとだよ。昨日餡子を作っておいたから、夏鈴ちゃんと一緒に食べよう」 「いおり、ありがとう!」  彪翔は、飛び上がって喜んだ。 「かりん、いおりのつくるものは、なんでもおいしいよ」 「おお…彪翔に褒められた。夏鈴ちゃんはどら焼き好き?アレルギーとかは大丈夫かな?」 「はい、あんこすきです。アレルギーもないです」 「そっか、良かった。今日は特別に作ってる所も見せてあげる」  伊織が子供たちと話していると、涼が材料を持って戻ってきた。 「あ、来たね。じゃあ、いくよー」 「「はーい」」  可愛い二人を引き連れて、伊織は調理場へと向かった。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3485人が本棚に入れています
本棚に追加