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今日も伊織は、園の子供たちが帰った頃を見計らい、彪翔を迎えに行った。
すると、今日は彪翔の他にもう一人子供がいた。
「園長先生」
伊織は園長に挨拶をしようと声を掛けると、
「ああ、橘さん」
「今日もお世話になりました。ところで、あの可愛い女の子は?」
「あの子は中途で今日、入園されたお子さんです。ご両親が共働きなので、特別にお預かりしています」
「そうなんですか…」
伊織は、園長と話しながら彪翔の様子を眺める。
彪翔は、その子と打ち解けたように会話をしていた。
可愛く笑う夏鈴に、彪翔が子どもとは思えない、
とても柔らかい表情を見せていた。
「ねぇ…涼、彪翔の表情が…何と言うか、彪仁さんの表情に似てる気がする」
「そうですね。あれは若が、伊織さんを慈しむときの表情ですね」
「うん、私もそう思う。彪翔、あの子が好きなのかな…?」
「やっぱり橘さんにも、そう見えますか?」
伊織たちの会話に、横から園長も参加する。
「やっぱりって…園長先生?」
「あの子は、中嶋夏鈴ちゃんっていうんですけど、今日みんなに紹介したら、いつもはみんなの中心にいるような彪翔くんが、今日は夏鈴ちゃんにべったりで。ほかの子たちを寄せ付けないんです」
彪仁の話を聞いているようで、伊織は苦笑いを浮かべ、
「…はは、すみません。喧嘩とかはありませんでしたか?」
「それは大丈夫です。彪翔くんに突っかかる子はまずいません。うちの園の頂点は、間違いなく彪翔くんですから。でも彪翔くんは、それをひけらかしたり、傲慢な態度を取ったりしないので、皆から一目置かれ、人気があるんだと思います」
そんなやりとりをしていると、彪翔が伊織たちに気が付いた。
「いおり」
彪翔は、その女の子の手を引いて伊織の元へとやってくる。
「迎えに来たよ、彪翔。帰ろうか」
「いやだ。かりんのおむかえがくるまで、のこる」
「そっか。こんにちは、夏鈴ちゃん。夏鈴ちゃんのお迎えはいつ来るの?」
「5じに、ママがむかえにくるって、いってました」
あと3時間あるか…。
そう考えた伊織は、お迎えを待つついでを思いつく。
「そう、分かった。園長先生、調理場をお借りしてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます。涼、屋敷からこの材料を持ってきてくれる?」
「はい」
伊織は涼にメモを渡しながら、伝言も伝える。
「それと、5時過ぎまで戻らないことも伝えておいて」
「分かりました」
涼は、指示を受けて本家に戻っていった。
「彪翔えらいね。夏鈴ちゃんをしっかり守ってる。だから今日は、ここで彪翔の好きなどら焼き作るよ」
「ほんとに!?」
「ほんとだよ。昨日餡子を作っておいたから、夏鈴ちゃんと一緒に食べよう」
「いおり、ありがとう!」
彪翔は、飛び上がって喜んだ。
「かりん、いおりのつくるものは、なんでもおいしいよ」
「おお…彪翔に褒められた。夏鈴ちゃんはどら焼き好き?アレルギーとかは大丈夫かな?」
「はい、あんこすきです。アレルギーもないです」
「そっか、良かった。今日は特別に作ってる所も見せてあげる」
伊織が子供たちと話していると、涼が材料を持って戻ってきた。
「あ、来たね。じゃあ、いくよー」
「「はーい」」
可愛い二人を引き連れて、伊織は調理場へと向かった。
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