虎穴02 獲物の所在の行方

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 紗栄子は、ここまで徹底的に調べ上げられて、  もう、抵抗する気力も無くなってしまった。 「この額は、今回の移籍金から差し引かせていただき、こちらで責任を持って伊織さんにお渡しします。よろしいですね?」 「……………はぃ」  紗栄子は言われる条件を、ただ吞むばかり、  そして最後に佐伯は、契約書を紗栄子と正式に交わした。  こうして佐伯は、伊織を無事、紗栄子の搾取からの解放に成功した。 「では、くれぐれも口外なさらないように。重ねてお願いします」 「…わかりました」 「この度は、移籍に同意いただき、誠にありがとうございました」 「………」  佐伯は、釘を刺すことを忘れず、  恭しく腰を折り、帰っていった。 □◆□◆□◆□  佐伯は、今回の成果の報告を、彪仁に上げる。 「若、無事、伊織さんを切り離しに成功しましたよ」 「そうか、伊織は?」 「今月末まではあちらに所属、来月から橘です」 「あ?」  彪仁は、来月からという期間が不満だった。 「若、伊織さんにも都合があるのですよ?退の体裁を取ってあげなければ。今月いっぱいは、指名が入ってますからね?仕事を投げ出して橘に、というのは来ずらいでしょう?」 「じゃあ、会いに行って、話すのは構わないのか?」 「…えっと、若?これ以上、伊織さんを怖がらせないでくださいね?」  佐伯は、彪仁の執着心に戸惑うばかりだった。  彪仁は、伊織に逢うために毎日、仕事を済ませ、  シフトを把握して、派遣先で待ち伏せしていたが、  伊織は、彪仁を徹底的に避けて、逃げ続けた。  そのスピードは、彪仁に到底追いつけるものではなく、  最後は、その姿さえ見ることは叶わなかった。 「……何故だ」 「だから私が言ったじゃないですか…」  彪仁は、心底解せぬ思いだった。 「若、明日は、私が伊織さんに接触します。朝から伊織さんの部屋を引き払いますので。逃げられて、万が一戻られたら驚かれます。いいですね?明日は接近禁止です」 「………わかった」 「明日の夜からは、いくらでも愛でられますから。それまでは、我慢してください。わかりましたね?」 「何度も言うな」  佐伯から、釘を刺されて仕方なく同意して、  翌日、彪仁は、大人しく仕事を終えると、マンションに戻った。  マンションで、彪仁は佐伯の連絡を待っていると、 "捕獲完了。お連れします"  佐伯から一言、メッセージが入った。  ようやく、自分の手元に伊織がやってくる。  彪仁は、浮足立つ自分を、抑えることが出来なかった。  しばらくして、カチャリとドアが開く音がする。 「どうぞ、お入りください」 「…はぃ。失礼します」  待ち焦がれた伊織の声が聞こえた。  初めて聞くその声は、彪仁の心臓を跳ね上げる。 「社長、伊織さんをお連れしました」 「…」  佐伯のやや後ろに見えた、華奢な身体。  彪仁は、伊織を見て満面の笑みで出迎え、  伊織は、苦虫を嚙み潰したような顔を向けた。
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