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虎穴07 獲物の抵抗
伊織は、彪仁の肩越しに、サイドボードの時計を見て飛び起きた。
「わあっ!!!! もうすぐ、お昼じゃない!!」
そう叫び、立ち上がろうとした時、
自分が何も着ていないことに気付き、また絶叫した。
「きゃぁぁぁっ、何で!?」
寝起きの頭で必死に記憶を手繰り寄せる。
そして、昨晩の情事を思い出した。
「………っ///」
昨日は、途中からの記憶がない。
だが、足腰のだるさが未だに残り、情を交わしたことは間違いなさそうだ。
呆けていても仕方がない。幸い今日は土曜日で、彪仁は休みだ。
だが、伊織はそうはいかない。すでに盛大に寝坊している。
とにかくお昼の準備をしなくてはと、ベッドから降りようとしたら、
「うわっ」
がくっと腰が砕けて、そのまま床にへたり込む。
伊織は、腰が抜けて立つことが出来なかった。
どうにかしようと、伊織が床で格闘していると、
後ろから彪仁の腕が伸びてきて、脇を抱えられてベッドに戻された。
「伊織、とりあえず落ち着け」
「彪仁さん、すみません。寝坊してしまいました…」
この世の終わりみたいな顔をする伊織に、
頬をするりと撫でながら、彪仁が言い聞かせる。
「今日は土曜日。だから大丈夫だ。それに、昨日は俺が無理をさせたからな」
「それでも…」
寝起きの悪い伊織だが、仕事で遅刻をした事がなかった。
それは、どれほど疲れていようと、体調が悪かろうと。
伊織は、この仕事を始めてからずっと、それを守ってきた。
だからこそ、ショックが大きかった。
「伊織、そんなにヘコむな」
「………ヘコみます。だって、仕事でこんなチョンボしたことないんです」
「とりあえず、シャワーを浴びよう。昨日はそのまま寝てしまったから」
「………はい」
彪仁は、足腰が立たない伊織を横抱きにして、二人でシャワーを浴びる。
浴室に入り、伊織を座らせると、
「座ってろ。洗ってやる」
「え、いいですっ」
浴室で、散々言い合いながら結局、伊織は彪仁に隅々まで洗われた。
浴室を出てからも、何かとちょっかいをかけられながら、
伊織は、漸く足腰に力が入るようになって、
「もうっ、彪仁さん、いい加減にしてください!」
伸びてくる彪仁の手をはたき落とし、大急ぎでお昼の準備を整えた。
二人で向かい合い、お昼を食べ始めたのだが、
彪仁はさらっと、とんでもないことを言い出した。
「伊織、今日から同じ部屋で寝るからな」
「…………は?」
伊織は思わず素っ頓狂に声を上げたが、速攻で彪仁の決め事を却下した。
「それは出来ません」
「あ゙?何でだ」
伊織から却下され、彪仁は苛立ちを滲ませる。
やや凄みを乗せ、圧を掛けてくる彪仁に、
「私は朝から仕事があります。彪仁さんと一緒で、朝が起きれないんです。大音量でアラームを鳴らします。無理です」
伊織は、臆することなくぴしゃりと言い切った。
「「…」」
無言で睨み合う、伊織と彪仁だった。
虎は、獲物を虎穴に迎え入れ、
長い時間を掛けてようやく、心を通わすことが出来た。
あとはただただ甘く、思う存分愛でるだけ。
そう思っていたのに…。
伊織は、彪仁の腕の中でも逃げ回る。
虎と獲物の攻防戦。
その火蓋が再び切られた瞬間だった。
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