虎穴07 獲物の抵抗

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 休日は、同じ部屋で寝ることに同意した伊織。  土曜日の今日も、逃げ腰の伊織を彪仁が部屋に引き摺り込む。  そしてそのまま彪仁に早速組み敷かれ、蕩かされそうになっていた。 「あの、待って。彪仁さん!」 「待てない。やっと存分に抱けるのに」 「存分にって…」 「今まで我慢していたんだ。あれだけじゃ足りない」 「足りないって…」 「伊織、諦めて俺に愛されろ」  問答無用で、噛みつくようにキスが降ってくる。  伊織は、呼吸も文句も全てのみこまれてしまった。  引き剥がそうとする僅かな抵抗も、彪仁に絡め捕られてしまう。  啄むように重なり、時々彪仁の舌が伊織の唇をするりと撫でる。  開いた唇から、容赦なく侵入され、逃げる伊織の舌が絡めとられた。    悔しいけど、気持ちいい…。  伊織は、あっという間にとろとろになった。  思考が蕩け、無意識に自分から舌を絡めていく。  体の中に熱が溜まり、身体の中心が疼きだす。 「伊織」  耳を食まれながら甘く名前を囁かれる。  それだけで伊織の思考は真っ白になっていった。 「あやと、さん」  伊織が欲情の炎をその瞳に灯し、スイッチが入る。  彪仁は、そんな伊織の頬に指を滑らせた。 「彪仁さん」 「ん、伊織。俺はもっとお前のことが知りたい」  伊織の頬に滑らせながら、そのまま包みこむ。 「……………狡い」 「何故?」 「そんなこと言われたら、拒否れない」 「拒否はなしだ、伊織」  伊織は、するりと彪仁の首に巻き付いた。  ぎゅっと体を密着させて、体温を分け合う。  彪仁は、しがみつく伊織をしっかりと抱きしめた。 「彪仁さん…」 「何だ?」  伊織は、彪仁の耳元で囁く。 「仕方がないので、今日も私が負けてあげます。彪仁さんの好きにしてください。全部受け止めますから」  彪仁を妖しく煽った。   「伊織、煽ったな。遠慮しないぞ?」 「はい。存分に」  言葉通り、彪仁は伊織を思う存分抱き潰し、  翌日も、伊織を華麗にヘコませたのだった。 □◆□◆□◆□  起きたのは、さらに遅いお昼。  この日も伊織はパタパタと動き回る。 「あ、洗濯終わったかな?」 「……………」  独り言を残し、リビングからいなくなる。  やっぱり伊織を愛でることが出来ない、彪仁だった。  そんな日曜日も終わり、寝る段になる。  案の定、彪仁は一緒に寝ると言い出し、伊織と揉めた。 「伊織!」 「だから駄目です!! 言いましたよね!? 駄々捏ねないで!! 諦めて、はいっ!お休みなさい!!」  伊織は強引に彪仁を部屋に押し込み、ピシャリとドアを閉めた。 「…」  伊織は彪仁が出てこないか、暫く部屋の前で仁王立ちで待つ。  出て来たら、押し込む気満々で。  しばらく彪仁の部屋の前で様子を窺っていると、  諦めたのか、ドアの向こうでベッドの軋む音が聞こえた。  そこでようやく伊織は、やれやれと小さく溜息を吐いた。 「…」  静かになった廊下で、今度は申し訳なくなる。  ドアに額を縋るようにそっと付け、 「おやすみなさい、彪仁さん。ごめんなさい…」  ポツリと零し部屋へ戻ろうとするが、思った以上に後ろ髪を引かれる。  伊織は、気合を入れ、その髪を引き摺って自分の部屋に戻った。  そして月曜日の朝、  伊織の部屋に、いつものように大音量のアラームが鳴り響く。 「…ん」  アラームを止めようと、手を伸ばした時、  その動線上に障害物があった。  何だと薄く目を開けると、  そこには、色気駄々洩れの、眠れる虎がいた。 「………っっ!!」  伊織は、叫びそうな自分を必死で抑えた。  同時に飛び起きて、勢いベッドから落ちそうになる。  いつの間に来たの!? 全然気づかなかった…。  彪仁は、アラームの音にも動じず、スースーと寝息を立てて眠っている。  伊織は、慌ててアラームを切った。  伊織の心臓が、ばくばくと忙しなく動く。  寝起きの頭がいきなり覚醒し、ズキズキと頭痛がした。  ようやく、心と頭が落ち着いて、彪仁の寝顔をまじまじと見る。  無防備な寝顔を見ていると、怒る気にはなれなかった。  彪仁の額に唇を寄せる。  伊織は、そっとベッドを出て、朝の支度に出ていった。
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