虎穴07 獲物の抵抗

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 いつものように支度を終えて、伊織は彪仁を起こしに行く。  狭いシングルベッドの端に腰を下ろす。 「彪仁さん、起きてください」 「………ん」  もぞもぞと、彪仁が動く。 「いつ来たんです?体、痛くないですか?」 「………いおり」 「はい、おはようございます。彪仁さん」 「……ぁあ、おはよう」  伊織は、彪仁の頬をするっと撫でた。 「彪仁さん、ちゃんと自分の部屋で寝てください」 「………いやだ」 「…もぅ、子供ですか」 「…」 「顔、洗って来てください。朝ご飯、食べましょう」 「…ん、わかった」  のそのそとようやく、彪仁が起き上がった。  眠そうな彪仁の背中を見送りながら、伊織は少し申し訳なく思っていた。  …でもさ、やっぱり一緒に眠るのは無理だよ。  伊織はそう思い、彪仁の体調を慮る。  やはりアラームが無いと起きれない為、平日は自分の部屋で眠った。  だが、そんな伊織の心遣いを他所に、  彪仁はこの日から毎日、伊織の部屋に侵入してくるようになった。 □◆□◆□◆□  彪仁の侵入が始まってから、5日が過ぎた。  毎日いつの間に侵入するのか、朝起きたら彪仁に抱きしめられているのだ。  今日も彪仁は伊織の部屋にやって来て、伊織のベッドに一緒に寝ていた。  彪仁の突撃のおかげか、伊織の体に体内時計ができた。  伊織は、ぱちっと目が覚める。  きっちりアラームが鳴る5分前。  伊織仕様のシングルベッドに彪仁が、  今日も伊織を、抱きかかえるようにして眠っている。  (体が痛いだろうに…)  伊織は、彪仁の身体が心配になる。  恐らく彪仁の侵入は、伊織が別室にいる限り続くだろう。  仕方ない…。  伊織は、今日から彪仁の部屋で眠ろうと決めた。  このまま続けば、彪仁が体調を崩してしまう。  それは、伊織の本意ではないから。  (また、私が負けてあげます)  そっとベッドを抜け出し、キッチンへと向かった。  時間になって、彪仁を起こしに行く。 「彪仁さん、時間ですよ」 「…………」 「身体、痛くないですか?」 「……………大丈夫だ」  伊織は、彪仁の頬に触れて、 「彪仁さん、今日から私も彪仁さんの部屋で寝ます」 「……」 「じゃないと彪仁さん、止めないでしょ?」 「…伊織」 「彪仁さんの身体が心配なので、今回も私が折れてあげます」 「フッ、そうか」  彪仁は、伊織に触れるだけのキスをして、洗面所へと消えていった。 □◆□◆□◆□  いつもの日常が終わり寝るとなって、伊織が彪仁の部屋へとやってきた。  お風呂に入り自分の枕を抱え、彪仁がいるキングベッドへ滑り込んだ。  すかさず彪仁が包み込んでくれる。 「伊織」 「………彪仁さんの匂いがする」 「そうか」 「彪仁さん」 「ん」 「彪仁さんが寝ていようと、私は大音量でアラームを鳴らします。寝起きが悪いですから、それが数回続きます。それでもいいですか?」  むっと眉間に皺を寄せて、彪仁の懐で伊織が可愛く告げる。 「もちろん構わない。俺もその程度では起きない自信がある」 「そうですか」 「ああ。だから、大丈夫」 「どこから来るんです?その自信」  伊織が彪仁の懐にすり寄ると、彪仁はそんな伊織の身体を包み込んだ。 「彪仁さんのわがままも……こまった、ものです…」  互いの温もりが心地いい。  伊織はそんな心地よさに包まれて、あっという間に眠った。 「寝つきがいいんだな…伊織は」  伊織の静かな寝息が、彪仁の眠りを誘う。  その日、二人はそのまま静かに眠った。
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