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いつものように支度を終えて、伊織は彪仁を起こしに行く。
狭いシングルベッドの端に腰を下ろす。
「彪仁さん、起きてください」
「………ん」
もぞもぞと、彪仁が動く。
「いつ来たんです?体、痛くないですか?」
「………いおり」
「はい、おはようございます。彪仁さん」
「……ぁあ、おはよう」
伊織は、彪仁の頬をするっと撫でた。
「彪仁さん、ちゃんと自分の部屋で寝てください」
「………いやだ」
「…もぅ、子供ですか」
「…」
「顔、洗って来てください。朝ご飯、食べましょう」
「…ん、わかった」
のそのそとようやく、彪仁が起き上がった。
眠そうな彪仁の背中を見送りながら、伊織は少し申し訳なく思っていた。
…でもさ、やっぱり一緒に眠るのは無理だよ。
伊織はそう思い、彪仁の体調を慮る。
やはりアラームが無いと起きれない為、平日は自分の部屋で眠った。
だが、そんな伊織の心遣いを他所に、
彪仁はこの日から毎日、伊織の部屋に侵入してくるようになった。
□◆□◆□◆□
彪仁の侵入が始まってから、5日が過ぎた。
毎日いつの間に侵入するのか、朝起きたら彪仁に抱きしめられているのだ。
今日も彪仁は伊織の部屋にやって来て、伊織のベッドに一緒に寝ていた。
彪仁の突撃のおかげか、伊織の体に体内時計ができた。
伊織は、ぱちっと目が覚める。
きっちりアラームが鳴る5分前。
伊織仕様のシングルベッドに彪仁が、
今日も伊織を、抱きかかえるようにして眠っている。
(体が痛いだろうに…)
伊織は、彪仁の身体が心配になる。
恐らく彪仁の侵入は、伊織が別室にいる限り続くだろう。
仕方ない…。
伊織は、今日から彪仁の部屋で眠ろうと決めた。
このまま続けば、彪仁が体調を崩してしまう。
それは、伊織の本意ではないから。
(また、私が負けてあげます)
そっとベッドを抜け出し、キッチンへと向かった。
時間になって、彪仁を起こしに行く。
「彪仁さん、時間ですよ」
「…………」
「身体、痛くないですか?」
「……………大丈夫だ」
伊織は、彪仁の頬に触れて、
「彪仁さん、今日から私も彪仁さんの部屋で寝ます」
「……」
「じゃないと彪仁さん、止めないでしょ?」
「…伊織」
「彪仁さんの身体が心配なので、今回も大人な私が折れてあげます」
「フッ、そうか」
彪仁は、伊織に触れるだけのキスをして、洗面所へと消えていった。
□◆□◆□◆□
いつもの日常が終わり寝るとなって、伊織が彪仁の部屋へとやってきた。
お風呂に入り自分の枕を抱え、彪仁がいるキングベッドへ滑り込んだ。
すかさず彪仁が包み込んでくれる。
「伊織」
「………彪仁さんの匂いがする」
「そうか」
「彪仁さん」
「ん」
「彪仁さんが寝ていようと、私は大音量でアラームを鳴らします。寝起きが悪いですから、それが数回続きます。それでもいいですか?」
むっと眉間に皺を寄せて、彪仁の懐で伊織が可愛く告げる。
「もちろん構わない。俺もその程度では起きない自信がある」
「そうですか」
「ああ。だから、大丈夫」
「どこから来るんです?その自信」
伊織が彪仁の懐にすり寄ると、彪仁はそんな伊織の身体を包み込んだ。
「彪仁さんのわがままも……こまった、ものです…」
互いの温もりが心地いい。
伊織はそんな心地よさに包まれて、あっという間に眠った。
「寝つきがいいんだな…伊織は」
伊織の静かな寝息が、彪仁の眠りを誘う。
その日、二人はそのまま静かに眠った。
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