虎穴07 獲物の抵抗

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□◆□◆□◆□  伊織は、彪仁の部屋で寝るようになって、  …というか、彪仁と寝るようになって、アラームいらずの身体になった。  やはり、彪仁を起こしたくないからだろう。  必ずアラームの5分前に目が覚めた。  起きれるじゃん、私…。  今までは、なんだったんだろう…。  自分の機微に、ただただ呆れる伊織だった。  そんな伊織たちが寝室を同じにして、しばらく過ぎた。  二人の心が通じ合っても、伊織は変わらず忙しない。  休日の土日でも、殆ど変わらなかった。 「伊織を愛でたいのに、出来ない…」 「彪仁さん、充分愛でてもらってますよ?」  仕事の手を止めずに、彪仁の零す言葉に返す。  ワイパーを滑らせながら、ぱたぱたと彪仁の目の前を走り抜けていく。  その日のルーティンワークを、毎日熟していく。  それが、伊織が彪仁と交わした契約だから。  それに伊織は、彪仁との関係に何の不満もなかった。  心の繋がりも、身体の繋がりも。  仕事も、プライベートも。  それほど付き合ってきた人数はいないが、  彪仁に抱かれるたびに、伊織の心は溢れるほどに満たされる。  これほど満たされる繋がりは、経験したことがなかった。  そのことを彪仁に伝えようと思い、仕事がひと段落ついて、  伊織は、未だ拗ねる彪仁の横に座り、額を肩に凭れかける。 「彪仁さん、私、これまでにないくらい満たされているんです」 「…そうか」 「はい。もう、出て行けと言われてしまったら死にそうなくらい」 「…」 「でも…お仕事もきちんとしたいんです」 「ああ、分かってる。伊織、悪かったな」  伊織は、ぶんぶんと首を振った。 「彪仁さんの心は分かっているんです。でも…」  彪仁は、凭れかかる伊織を抱き寄せた。 「伊織、お前の心は俺も分かっている。俺が、ただ拗ねてるだけだ」 「フフッ、彪仁さん、拗ねてるんですか?」 「悪いか?伊織の事になると、自制が効かない自覚がある」 「そうですか」  伊織は、彪仁の首に巻き付いて、体を密着させる。 「彪仁さん」 「何だ、伊織?」 「今日は、お酒が飲みたいです」 「いいぞ。出かけるか?」 「いえ、お家で飲みたいです。簡単なおつまみを作りますから」 「分かった」  伊織は、話しているうちに、どうにも切なくなってしまい、  彪仁から離れることができなくなった。  そんな伊織を、彪仁はしっかりと抱き寄せる。 「伊織、もう仕事は終わったのか?」 「はい。後は晩御飯を作るだけです」 「じゃあ、少し休め。いつも思うが動きすぎだ。俺も寝る」 「はぃ。じゃあ、少しだけ…」  そう言うと、彪仁の腕の中で、すぐに伊織の意識が沈んでいく。  彪仁は、伊織ごとゴロンとソファに寝転がった。  伊織はもぞもぞと、彪仁の懐で頭の位置を決めると、動かなくなった。  静かな寝息が彪仁の首元を掠める。  伊織の寝息を聞きながら、  彪仁もうとうとと、意識を沈めた。
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