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伊織は、彪仁の部屋で寝るようになって、
…というか、彪仁と寝るようになって、アラームいらずの身体になった。
やはり、彪仁を起こしたくないからだろう。
必ずアラームの5分前に目が覚めた。
起きれるじゃん、私…。
今までは、なんだったんだろう…。
自分の機微に、ただただ呆れる伊織だった。
そんな伊織たちが寝室を同じにして、しばらく過ぎた。
二人の心が通じ合っても、伊織は変わらず忙しない。
休日の土日でも、殆ど変わらなかった。
「伊織を愛でたいのに、出来ない…」
「彪仁さん、充分愛でてもらってますよ?」
仕事の手を止めずに、彪仁の零す言葉に返す。
ワイパーを滑らせながら、ぱたぱたと彪仁の目の前を走り抜けていく。
その日のルーティンワークを、毎日熟していく。
それが、伊織が彪仁と交わした契約だから。
それに伊織は、彪仁との関係に何の不満もなかった。
心の繋がりも、身体の繋がりも。
仕事も、プライベートも。
それほど付き合ってきた人数はいないが、
彪仁に抱かれるたびに、伊織の心は溢れるほどに満たされる。
これほど満たされる繋がりは、経験したことがなかった。
そのことを彪仁に伝えようと思い、仕事がひと段落ついて、
伊織は、未だ拗ねる彪仁の横に座り、額を肩に凭れかける。
「彪仁さん、私、これまでにないくらい満たされているんです」
「…そうか」
「はい。もう、出て行けと言われてしまったら死にそうなくらい」
「…」
「でも…お仕事もきちんとしたいんです」
「ああ、分かってる。伊織、悪かったな」
伊織は、ぶんぶんと首を振った。
「彪仁さんの心は分かっているんです。でも…」
彪仁は、凭れかかる伊織を抱き寄せた。
「伊織、お前の心は俺も分かっている。俺が、ただ拗ねてるだけだ」
「フフッ、彪仁さん、拗ねてるんですか?」
「悪いか?伊織の事になると、自制が効かない自覚がある」
「そうですか」
伊織は、彪仁の首に巻き付いて、体を密着させる。
「彪仁さん」
「何だ、伊織?」
「今日は、お酒が飲みたいです」
「いいぞ。出かけるか?」
「いえ、お家で飲みたいです。簡単なおつまみを作りますから」
「分かった」
伊織は、話しているうちに、どうにも切なくなってしまい、
彪仁から離れることができなくなった。
そんな伊織を、彪仁はしっかりと抱き寄せる。
「伊織、もう仕事は終わったのか?」
「はい。後は晩御飯を作るだけです」
「じゃあ、少し休め。いつも思うが動きすぎだ。俺も寝る」
「はぃ。じゃあ、少しだけ…」
そう言うと、彪仁の腕の中で、すぐに伊織の意識が沈んでいく。
彪仁は、伊織ごとゴロンとソファに寝転がった。
伊織はもぞもぞと、彪仁の懐で頭の位置を決めると、動かなくなった。
静かな寝息が彪仁の首元を掠める。
伊織の寝息を聞きながら、
彪仁もうとうとと、意識を沈めた。
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