虎穴07 獲物の抵抗

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 1時間ほど眠って、伊織は目を覚ました。  先に目を覚まして、伊織の寝顔を堪能していた彪仁が、 「伊織、もういいのか?」 「はい、久しぶりにお昼寝しました…。これ以上は夜寝れなくなります」  そう言って起き上がると、うーんと背伸びをして、くぁっと可愛いあくびをされる。  そんな伊織を見た彪仁は、どうにも収まらなくなってきた。  きゅっと伊織の身体を自分の腕に閉じ込める。 「…っ、彪仁さん」 「伊織」  砂糖がけの甘々な声色で、彪仁が名を呼ばれ、  ソファに押し倒されて、組み敷かれてしまう。   「ぇ、彪仁さんっ、ちょ…」  待ての言葉は、彪仁のキスに吸い取られてしまった。  啄むキスが落ちてくる。 「……っんーっ!」  ジタバタと足をバタつかせ、伊織はソファの上で、盛大に抵抗する。  彪仁は、そんな伊織の膝を割り、身体を滑り込ませてきて、  いよいよ伊織は身動きが出来なくなった。 「彪仁さんっ、待って」 「何でだ」 「何ででもです!人が来たらどうするんです!」 「気にしない」 「気にします!!」 「…」  伊織は必死に拒否するのだが、  彪仁は、そんな伊織にとんでもない事を言い放つ。 「気にする必要はない、伊織。誰が来ても、黙っていなくなる」 「は!?!? 相手なんか知りません!! 何度でも言いますよ!? !!!!! 冗談じゃないです!!!」  盛大に拒否をして、盛大に暴れ、伊織は彪仁の拘束から逃れる。  ふぅっとヤレヤレと息を吐きながら、少し乱れた服を整えて、 「全く…買い出しに行ってきます。何か必要なものありますか?」 「…………」  また拗ねてしまう彪仁に、伊織は困ってしまった。 「彪仁さん」 「…」 「もぅ、子供ですか。そんなに拗ねないで…」  伊織は、彪仁の隣に座り宥める。 「彪仁さん、これからずっと一緒に居るんですから…」 「……伊織」 「とりあえず、今日の酒盛りの買い出しに行きたいです」 「…酒盛り」 「はい、酒盛りです。ここに越してきて、晩酌をしてないんです」 「晩酌…」  彪仁は、ポツリと思わず心の声が漏れる。 「オヤジか」 「オヤジデスガナニカ」 「…フッ」 「フフッ、機嫌直して下さい。今日は何を食べたいですか?」  彪仁がいつも通り、何でもいいと言うので、  伊織は、おつまみにも、おかずにもなるものを、いくつか作ることにした。 □◆□◆□◆□  二人で出掛けるので、佐伯と涼がついて来る。  4人体制でスーパーに繰り出した。 「佐伯さん、すみません」 「いえ、大丈夫ですよ?私どもは空気と思ってください」 「は?…空気??」 「若とイチャイチャOKです。ウチの奴らが、すかさず壁を作りますから」  初め、何を言ってるのか分からなかった伊織だったが、突然頭が理解して真っ赤になる。 「ばばば馬鹿ですか!? するわけないじゃないですか!!」  思わず周囲を見回すと、ぽつぽつと少し離れたところに黒い塊がいた。  伊織はさらに真っ赤になって怒っていると、そんな伊織に彪仁が、 「しないのか?」 「しません!!!!」  からかわれたのか、本気なのか。  その機微が全く分からなかったので、  彪仁の隣から離れ、伊織は涼の腕に縋り付いた。 「……涼さん、私の横に陣取って下さいっ」 「くす。分かりました」  伊織は、買い物をする間中、涼からずっと離れなかった。
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