3419人が本棚に入れています
本棚に追加
prologue 俺という捕食者と、私という獲物
▷ 俺という捕食者
橘彪仁(たちばなあやと) 31歳
極道・橘組の若頭にして、橘商事の代表取締役社長。
今の時代、しのぎだけでは、生きていけない。
どこの組織も大概、表の会社を持っている。
不動産業、飲食業、ホテル業、建設業、その他諸々、
橘グループは、大方の業種は網羅する。
橘組の規模は、首都隣県で、一、二を争い、
一つの街に、隅々まで橘の息がかかっている。
俺は、そんな橘の街に常に目を光らせていた。
ある時、
俺の街に、可愛い獲物が現れた。
その獲物は、小動物のように可愛らしく、
小動物らしく、非常に素早かった。
俺は、その獲物を捕らえようと追いかける。
だが獲物は、俺を翻弄するスピードで、
あっという間に、俺の視界から消えていく。
どうにも追いつかず、獲物には、毎回逃げられてしまっていた。
なかなか捕獲できない獲物だったが、
俺は、狙った獲物は絶対に逃がさない。
獲物が俺の街にいる限り、逃げることはできない。
監視の目は、街中に張り巡らせてある。
逃げ道はない。蟻一匹も見逃さない。
捕まえたら、ドロドロに甘やかし、
俺なしではいられなくしてやる。
さあ、諦めて、
捕食者の虎穴へ飛び込んで来い。
□◆□◆□◆□
▶ 私という獲物
松雪伊織(まつゆきいおり) 26歳
私は、自慢じゃないが、家事が得意だ。
料理、洗濯、掃除、その他諸々。
何でも手際よく熟す。
私の仕事は、いわゆる『家政婦』といわれるものだ。
依頼された日数、泊まり込みで家事全般を任されたり、
時間単位で、料理、洗濯、清掃など、依頼されたものを熟したり。
その手際の良さから、私は職場一の稼ぎ頭で、
派遣先から引く手数多の高評価。
ある意味『家政婦』は、私の天職だった。
今日も依頼先に出向き、淡々と仕事を熟し、
一日の終わりに、お気に入りのストロング缶と、
半額シールのついたスーパーの総菜を調達。
部屋で晩酌して、一日の疲れを癒す。
私の一日は、ほぼこのルーティンで過ぎていた。
そんなある日、いつものように依頼が来た現場へ行くと、
そこは、恐ろしい虎の居所の入り口で、
私は、そこで美しい虎に遭遇した。
美しいその虎を、私は見ることが出来なかった。
美しいと思うより、恐ろしいと思うのが先だったからだ。
ところが、
何故か虎は、私を見つめて狙いを定め、
私を、獲物として認定してしまう。
私は、すぐに逃げ出した。
虎は、毎日小動物を捕食しようと追いかけてくる。
私は、毎日ひたすら虎の捕獲網を搔い潜り、どうにか逃げ続けていた。
でも、逃げても逃げても、
虎は、私を捕まえようと追いかけてくる。
街中どこに逃げても、虎は、私の目の前に現れた。
私の逃げ道は、日に日に狭められていく。
今日も虎は、私の前に立ち塞がった。
私は、虎に狙われた獲物。
どう足掻いても逃げることが出来なかった。
ああ…神様、
小動物は捕食者に、
食べられる運命なのでしょうか…。
---これは、この二人の愛の攻防戦。
その、せめぎ合いのお話である。
最初のコメントを投稿しよう!