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ひとしきり花火を楽しみ、終盤に線香花火をする運びになるのは毎年恒例だ。
蝋で固定したロウソクがゆらりと揺れる中、線香花火の封を切ると、俺はとあることを思いついた。
「なぁ大和。俺の方が火落ちるの遅かったら大和の好きな子教えてよ!」
そう持ち掛けると大和は「別にいいけど、涼太すぐ落とすじゃん」と笑った。
「舐めて貰っちゃ困るぜ! 俺はこう見えて成長してるんだぞ!」
「花火に成長もなんもないだろ」
賭け事の承諾を得たことで俺はいつになく本気だ。
せーの、でロウソクに導火線を当てる。程なくして火が燃え移り、か細く小さな玉になっていく。
指先に全集中をしてロウソクから離すと、小さな火花がパチパチと灯りはじめたところで、大和が口を開いた。
「……今年で最後かもな。こうやっていっしょに花火するの」
ーー最後?
思わず振り向こうとすると、大和は「動くと火落ちるよ」と静止した。
ーーどういう意味だろう。
まだ高校生活は1年残っているし、大和が引越しするとか編入すると言った話は聞いたことがない。頭の中でグルグルとその言葉の意味を考えてみたけど、やっぱり思い当たることがない。
ーー俺に彼女出来たら、ってことかな。
考えたところで答えは出ないし、勝負は勝負だ。けしかけた手前、ここで負けるわけにはいかない。今はとにかく全集中だ。
「あ…」
大和が声を上げたので視線だけ向けると、地面に落ちた小さな赤い光が吸い込まれていった。
「落ちたわ」
「はい〜!俺の勝ちぃ」
大人気なく煽ってやると、大和はひとつため息をついた。
「てかさっきの今年が最後ってどういう意味?」
好きな子よりも気になることを口走りながら、バケツに線香花火を放り込み、顔を上げるとふいに影が重なった。
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