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一度、別の視点から見てみよう。
俺はこの家族は結構好きだ。
まあ他の家の家族になったことはないから、他の人からみたら気の毒な家かもしれない。
でも、俺がそこそこ気に入っているのだから問題はない。
まあ敢えて言うなら、ちょっと何かあっただけでみんなが騒ぐのがうっとうしいくらいかな。今朝も女3人からグチグチ言われた。
「とっしー、また弁当箱を次の日の朝に出したね?」
「まあ! それは大変だわ! タイホしないと!」
「ねえ、それってどんな罪なのー?」
「あーあー、すみませんでしたっ!」
俺がブチ切れても暖簾に腕押しだ。
「反省の色が見えん!」
「ねーねー、反省の色って何色かなー?」
「黒じゃないよね? 白? 間を取ってグレー?」
「いや、もうちょっとカラフルな方が……」
「それだと、反省の感じが出ないんじゃない?」
……やってられん。
だけど、良いことをした時もみんなが騒ぐ。
「とっしー、英検受かったね! おめでとー」
「おー、この前は数検も受かったよね。すごいね~」
「まあ! お祝いしないといけないじゃない! 私、チーズケーキがいいわ」
「とっしー、もっと検定受けてよ。次はフルーツタルトが食べたいから!」
……絶対、ただケーキを堂々と食べる口実が欲しいだけだろ。
うーん、どっちにしてもやかましい家ってことだ。
やかましいのが苦手な人には最悪かもしれない。
そうか。
みさきの言ってたのはこれか。
同じことがあった場合にも、その時の状況や気分で感じ方が違うことだってある。
どっちかに決めなくなっていいんだ。
嫌な時や悲しい時や腹が立ったときは、思いっきりわめき散らしたり怒ったりすればいい。
面白い時や楽しい時や嬉しい時は、思いっきり笑ったり喜んだり騒いだりすればいい。
その時に自分のやりたいように感情を表現できる環境にいる俺は幸せかもしれないし、家族が干渉してくるからかわいそうなのかもしれない。
世の中には1つに決められないこと、決めなくてもいいことがたくさんあるんだ。
そんな発見をした俺は、また少し大人に近づいたのかもしれない。
【了】
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