生徒会費が盗まれました

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生徒会費が盗まれました

 授業が終わった私は生徒会室に向かった。私はヘイズ王立魔法学園の生徒会長をしている。公爵令嬢だし、成績は学年トップだし、美人だし、人徳があるし……  主に前2つの理由だとは思うが。  いつもは静かな生徒会室。でも今日は状況が違った。  私が生徒会室のドアを開けたら、生徒会のメンバーが一人の女子生徒を取り囲んで尋問している。 「あなたがやったんでしょ? 正直に言いなさいよ!」 「そうよ! 証拠もあるんだからね!」  取り囲まれた女子生徒は下を向いたまま黙秘を続けている。  私は生徒会メンバーのメアリに「どうしたの?」と尋ねた。 「マーガレット様、生徒会費の使い込みが発覚して、この子が犯人として捕まったんです」 「生徒会費を使い込んだ……生徒会費ってこの生徒会の活動費だよね?」 「そうです。生徒会の活動は生徒会費から賄っています」 「うちの学園の生徒会費ってそんなに残っていたかしら?」 「それが……」  生徒会費の管理は会計のカトリーヌに任せている。生徒会費の管理は私の仕事ではないけど、学園祭も終わったし年度の後半に差し掛かっているから、既に年度予算のほとんどを消化している。だから、大きな金額が残っていなかったはず…… 「予算は消化しているはずだから、大金ではないんでしょ。そんなに大事(おおごと)にしなくてもいいじゃない?」 「それが……今までの会計報告が虚偽(きょぎ)でして……」 「生徒会の会計報告が間違っていたということ?」 「そうです。今まで生徒会が支出したと報告されていた金額のうち、かなりの金額の使い込みが発覚しました」 「えぇ? どれくらいの金額なの?」  メアリは耳打ちして教えてくれた。相当な金額だ、ロベールの家なら建つかもしれない。  やっと生徒会メンバーが騒いでいるのが理解できた。これは大事だな……  そうしている間にも生徒会メンバーによる尋問は続いている。 「カトリーヌ、証拠はあるのだから、何とか言いなさいよ!」 「何も言わなかったら、警察に通報するわよ!」  女子生徒は黙秘を続けている。 ――カトリーヌ……  生徒会の会計を任されているカトリーヌ・ブラン、今回の容疑者だ。  たしか、ブラン子爵家の次女のはず……  子爵令嬢なのに生徒会費を使い込むのか? 遊ぶ金欲しさに?  子爵家の令嬢がお金に困っている状況に違和感がある。  それに、こんなに責め立てられたら、カトリーヌも弁明できない。  とにかく、私はカトリーヌから理由を聞くことにした。 「カトリーヌ、ちょっといい?」 「マーガレット様!」 「隣の部屋で私と二人きりで話しましょう」 「はい」 「私が事情を聞くから、他の人はこの部屋にいて下さい」  私はそういうとカトリーヌを連れて別室に移動した。 ***  静かな別室に移ってカトリーヌを責め立てる生徒会メンバーの姿はなくなった。それでも、カトリーヌは緊張しているように見える。  私はカトリーヌに静かに語り掛ける。 「カトリーヌ、話はさっきメアリから聞いたわ。お金を盗んだのは本当なの?」  カトリーヌは黙ったまま私の目を見つめている。  私が「怒らないから、正直に言ってほしいの」と言うと、「うぅぅぅ……」と嗚咽が聞こえた。 「辛かったのね」  私はカトリーヌを抱き寄せた。  カトリーヌは「申し訳ありません」と何度も私に謝った。私に謝ってもしかたないのだが、今はカトリーヌのしたいようにさせておこう。  しばらくしたら、カトリーヌは少し落ち着きを取り戻した。  私は改めてカトリーヌに質問する。 「カトリーヌ、あなたはブラン子爵家の令嬢です。何があったのですか?」 「……」 「遊ぶ金欲しさに盗んだのですか?」 「違います!」  カトリーヌは精一杯否定した。子爵令嬢としてのプライドはあるようだ。 「じゃあ、何か事情があったの?」 「……」 「口外しないから、私にだけ教えてくれない?」  カトリーヌは「分かりました」と言って経緯を語り始めた。 「お恥ずかしながら……母が違法カジノにハマってしまって……」 「違法カジノ? 違法カジノって違法よね?」  バカな質問をしてしまった私。  ヘイズ王国では国営カジノ以外は認められていない。私は違法カジノが存在していることを知らなかったから、当たり前のことを聞いてしまったのだ。 「もちろん違法です。違法カジノで母が作った借金返済のために、領地や自宅を売却したりしたんです」 「ブラン子爵家は裕福な家だったわね?」 「はい、以前は……」 「領地や自宅を売っても足りなかった……そういうこと?」 「……はい」  カトリーヌは私から目を背けて話を続けた。きっと恥ずかしいと思っているのだ。 「学園のお金を盗むことは悪いことです。許されることではありません。もちろん知っています。私は警察に突き出されても仕方のないことをしたのです」 「そうね」 「申し訳ありませんでした!」 「それで借金は返済できたの?」 「いえ……利息の支払いしか……」  カトリーヌは借金返済のために領地や自宅を売却したと言ったが、それでも全然足りなかったらしい。違法カジノで借金がそこまで膨らむものなのか? 「ねえ、カトリーヌ。あなたのお母様が違法カジノで借金を作ったことは分かった。あなたの家は裕福な子爵家だったのよ。領地や自宅を売却しても完済できない借金って、どういうことなの?」  すると、カトリーヌは借金が雪だるま式に膨らんでいったカラクリを語り始めた。  カトリーヌの母が違法カジノに初めて行ったのは半年前。知り合いの伯爵家のママ友と一緒だったらしい。そのカジノは子爵家が運営しているものらしいが、カトリーヌはその子爵の名前を知らなかった。  初めての賭博に不安を抱えていたものの、カトリーヌの母は勝って帰ったらしい。その次に違法カジノに行ったときも勝って帰ってきた。カトリーヌの母は違法カジノに行けば、お金が儲かると錯覚したようだ。これはカジノの戦略だ。  そのうちカトリーヌの母は負け始める。それでも、『次のゲームに勝てば負けを取り戻せる』と思って違法カジノに入り浸るようになった。  カトリーヌの母はトータルで負け続けていたが、家の金を持ち出して違法カジノに行っていたわけではなかった。カジノは貴族に対して信用(借入)でゲームをすることを許可していたため、カトリーヌの母には借金が膨らんでいる認識はなかった。  ちなみに、違法カジノの金利はトイチ(10日で1割の利息が付く)。例えば、半年前に借りた100は、半年後(180日後)には556(=100×(1+10%)^18)になる。  カトリーヌの母は、違法カジノでは信用(借入)で賭博行為をしていたから、賭け金として作った借金とは別に、その何倍もの利息が発生して借金が急激に膨れ上がった。 「つまり、あなたのお母様の借金はそれほど大きくなかった。そういうこと?」 「そうです。母の借金のほとんどは利息です」  カジノもトイチの金利もヘイズ王国では違法だ。私はカトリーヌを助けてあげたいのだが、違法行為から発生したブラン子爵家の借金をうち(ウィリアムズ公爵家)が肩代わりするわけにはいかない。  それに、同じような状況はヘイズ王国で起こっているはずだから、大本を断つ必要がある。  違法賭博で財産を巻き上げる行為は公爵令嬢として許せない。それに、違法カジノを運営しているのはどこかの子爵家らしいから、ロベールの出世に役立つはずだ。  私は違法カジノの調査を次の案件にすることを決めた。
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