妄想癖のあるストーカー

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妄想癖のあるストーカー

 私はミシェルの質問にショックを受けている。 ――私はロベールと付き合っていない?  私はロベールと付き合っていると思っていた。  競技会の後、私はロベールに「私の婚約者になりなさい」と言った。  その後、ロベールは……  私に「ダンスパーティーを一緒に踊ってもらえませんか?」と言った。  ロベールから直接的な回答はなかった。でも、同じ意味のはずだ。  ひょっとして、違うのだろうか? 「付き合っているはず……」私は小さくミシェルに言った。 「はず、ですか?」 「ええ、そうよ」 「付き合っているか?いないか? これは『虫よけ大作戦』において重要なことです」 「そう?」 「もし、お嬢様がロベール様と付き合っていなかったら、他の女子生徒を排除する権利はありません」 「そんな……」 「つまり、二人が付き合っていない場合、お嬢様は妄想癖のあるストーカーなのです!」 「妄想癖のあるストーカー?」 「そうです。ロベール様と付き合っている、という妄想。ロベール様に付きまとうストーカー。そういう意味です」 「うぅぅぅ……」  ミシェルは『私たちが付き合っているか?』の事実確認をし始めた。 「どちらかから、「付き合ってください!」と言いましたか?」 「私から「私の婚約者になりなさい」と言ったわ」 「ふむふむ。お嬢様が告ったんですね」 「まあ……そうね……」 「それで、ロベール様の返事はどうでした?」 「ダンスパーティーで一緒に踊ってほしい、と言われたわ」 「ふーん」 「なによ?」 「ロベール様はお嬢様に対して、正式にお返事されていませんね」 「えっ? 意味は同じでしょ?」 「そうですか? もし、『お肉食べたいですか?』と質問されて、『魚がいいです』と答えたら意味は同じですか?」 「違うけど……」  私はミシェルに反論を試みる。 「照れ隠しで『ダンスパーティーで一緒に踊ってほしい』と言ったんじゃないの?」 「ご本人にちゃんと確認しましたか?」 「してないわよ! だって、実質的にオッケーでしょ」 「それはどうでしょうか……」  いま私は理解した。 ――ミシェルは私とロベールが付き合っていないと思っている! 「今日、ロベールと手をつないで、いえ、腕を組んで歩いたわ」 「ふーん」 「腕を組んで歩く男女は恋人よね?」 「手をつないで、腕を組んで……子供ですか?」 「はぁ?」 「小学生でも手をつなぎますよ。それだけでは付き合っているとは言えません」 「じゃあ、どうしたら付き合っている男女なのよ?」 「そうですねー。たとえば、キスしたとか……」 「キッス?」 「そうです。恋人同士ならキスくらいは……」 「キッスは正式に婚約した後にすることじゃ?」 「ふっ」  ミシェルは鼻で笑った。完全に私のことをバカにしている。 「違うの?」 「お嬢様、何十年前の話をされているのですか? 今の男女は婚約前にキスします。これが普通です」 「えっ? ひょっとしてミシェルはキッスしたことあるの?」 「いやー、どうでしょうねー」 「ちょっと、ミシェルーーー!」  ミシェルは納得しないと『虫よけ大作戦』を遂行しない。とりあえず、ロベールには明日確認しよう。 ***  少々取り乱した私は、ミシェルに具体的な任務を伝える。 「『虫よけ大作戦』は他の虫(女子生徒)をロベールに近づけないための作戦」 「まあ、二人が付き合っているのなら、協力しますよ」 「明日、ロベールに確認してくるわ」 「私が動くのは確認後ですからね」 「それでいいわ。とにかく、ミシェルは女子生徒を追い払うのよ!」 「えぇ? 具体的にどうやるんですか?」  私は『虫よけ大作戦』の内容をミシェルに説明する。 「まず、この作戦は2段階に分かれる」 「面倒くさいですね……」 「うるさい! まず、1段階目。『ロベールが私のことを愛している』という噂を学校中にばら撒きなさい。『私も、ちょっとはロベールに気がある』ことを付け加えてもいいわ」 「えぇぇぇ? 付き合ってもないのに?」 「しつこいわね! 付き合ってるわよ! 明日証明するから!」 「はいはい」 「やるのよ! 分かった?」 「しかたないですね……」 「次に、2段階目。ロベールに近づいてくる女子生徒がいたら邪魔しなさい」 「それは無理ですよ。学校ですから女子生徒がロベール様に近づくこともあります。全部は阻止できません」 「もちろん分かっているわ。だから、一定の距離までなら許す」 「一定の距離……どこまでですか?」 「そうね……半径1メートルはどうかしら?」  ミシェルが呆れたようなジェスチャーをしている。この侍女はいちいちムカつく。 「半径1メートル? 教室で、ロベール様の隣の席に座ったらアウトですよ」 「そうね」 「現実的な距離にして下さい」 「じゃあ、半径50センチメートルは?」 「半径50センチメートルですか。パーソナルスペースがそれくらいですから、まぁ妥当な距離ですね」  ミシェルは半径50センチメートルに納得したようだ。 「そして、ロベールの半径50センチメートルに女生徒が入ってきたら……」 「いたら?」 「タックルして半径50センチメートルの外に出すのよ!」 「タックルですか?」 「そうよ。パーソナルスペースに私以外の女生徒が入ってきたら、ロベールは意識するはず。そんなことはあってはならない!」 「お嬢様の気持ちは分かりますが……効率悪くないですか?」  またミシェルはバカにしたような目で私を見ている。 「じゃあ、どうすればいいのよ?」 「そうですね。お嬢様がロベール様に結界魔法を掛けたらどうですか?」 「結界魔法?」 「女性が半径50センチメートル内に入れない結界魔法です」  ミシェルの意見は尤もだ。なかなかいい案かもしれない。  私は何か見落としがないかを考える。 「その結界、私も入れないよね?」 「まぁ、そうなりますね。でも他の女子生徒は排除できますよ」 「却下! 却下よ!」 「ちっ!」  ミシェルの抵抗は虚しく終わった。 「私やロベールの家族以外の女性が入れない結界、そんな複雑な結界を作る方が大変。あなたが付きっきりで見張ってタックルした方が効率的!」 「絶対に違うと思いますよ……」 「何か文句でも?」 「それに、私、他の学生に嫌われませんか?」 「嫌われるかもしれないわね……」 「そんなの嫌です! 私、仲間外れは嫌なんです!」  ミシェルは泣き落とし作戦に出た。さすがは私の侍女、私がこういうのに弱いのを知っている。ただ、私は折れるわけにはいかない。 「ミシェル、よく聞きなさい」 「はい、お嬢様」 「あなたは他の学生に嫌われるのと、私に嫌われるのと、どちらが嫌かしら?」 「ぐぬぬぬ……」 「ほら、どっちが嫌?」 「ちっ!」  また舌打ちした。ミシェルは泣き落とし作戦の失敗を悟ったようだ。 「もちろん、お嬢様に嫌われることです」 「じゃあ、他の学生に嫌われても構わないわね?」 「それは……」 「不満なの?」 「承知しました……」  あぁ、疲れた。ミシェルは優秀だけど、こういうところが疲れる…… 「じゃあ、確認するわよ。ロベールの半径50センチメートル内に入った女生徒がいたら、あなたはどうするの?」 「タックル……。タックルして、追い出します」 「よくできました!」  こうして私は2つの作戦を決行することにした。  すべては、ロベールを伯爵にして私と婚約するため……  それにしても、 ――付き合っている男女は婚約前でもキッスするらしい……  ミシェルから有用な情報を聞いた。
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