ほらー、効かないんでしょー

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ほらー、効かないんでしょー

 マフィアはロベールに任せることにして、私はシュミット子爵の方へ歩いて行った。  決して、ロベールが邪魔者扱いしたからではない……  シュミット子爵は紋章付きの上質な上着を着ている。違法薬物の取引のおかげで金回りがよさそうだ。そんなシュミット子爵は従者の後ろに隠れている。  スラム街の薬物中毒者たちを見た私はシュミット子爵に怒りを覚える。すぐに消し炭にしたいところだが、グッとこらえて私はシュミット子爵に話しかけた。 「はじめまして、シュミット子爵。マーガレット・マックスウェル・ウィリアムズです。私のことはご存じですよね?」 「マーガレット様、私共が違法薬物の取引をしているなんて、滅相もございません」 「白を切っても無駄です。証拠は既に私の家の者が掴んでいます。大人しく捕まった方が身のためですわ」  シュミット子爵は薄ら笑いで馬車へ走って行くと、白金の鎧を纏った兵士を連れて出てきた。 「ふーっ、しかたありませんね。私が助かるためには、あなたに死んでいただくしかないようです」 「あなたに私が殺せる?」 「ええ。この兵士が纏っているのは全魔法を防ぐ鎧です。さすがのマーガレット様でもこの鎧には勝てませんよ」  半笑いで話すシュミット子爵に怒りを覚えた私。 「じゃあ、試してみたら?」 (地獄の烈火(ヘルズ・フレイム))  白金の鎧を纏った兵士に向けて中級魔法を放った。爆風で吹き飛ぶシュミット子爵と従者たち。ちなみに、白金の鎧は無傷だ。 「ほらー、効かないんでしょー。もっといくわよー」 (地獄の烈火(ヘルズ・フレイム))  私は炎を追加した。この中級魔法であれば20個は同時発動可能。だから、あと18個追加できる。  さて、白金の鎧を纏った兵士はどこまで耐えられるか?  馬車は焼け焦げ、倉庫の壁はドロドロに溶けている。倉庫の柱が崩れて落ちてきた天井、それも炎に触れた瞬間に燃え尽きる。  叫び、逃げ惑うシュミット子爵、従者とマフィアたち。倉庫の外に出ようとするものの、結界に跳ね返されて脱出できない。  次第に状況を理解し、死を覚悟する男たち。このままでは皆殺しに……  男たちは力の限り結界を叩き、外に助けを叫び続けている。 「誰かいないかーー?」 「助けてくれーー!」 「殺されるーー!」  それでも白金の鎧は壊れない。 ――なかなかやるわねーー!  白金の鎧はあと何発で破壊できるか? 1発? 2発?  そう考えると、テンションが上がっていく私。 「アハハ! 暑いでしょー。もっといくわよー、それー!」  私が炎を追加しようとしたら、シュミット子爵が叫んだ。 「お止め下さい!」 「止めるって何を?」 「これ以上の攻撃はお止め下さい!」 「私は鎧を攻撃しているだけ。あなた達を攻撃しているわけじゃないわ」 「お願いです! 降参します! お願いです!」  私が男たちを見たら、全員武器を地面に捨てて地面にひれ伏していた。 ――白金の鎧を壊してほしくないのかな?  シュミット子爵が何を謝っているのかを考えていたら、大量の水が発射されて炎が消化された。ロベールが水魔法を使ったようだ。  一命を取り留めた男たちはロベールに擦り寄っていった。  そして、ロベールの情に訴え始めた。 「このままでは殺されます!」 「何とかして下さい!」 「罪は認めますから、命だけは!」  ロベールの後ろに隠れていれば私に攻撃されないと思っているのだろう。なんて卑怯なやつらだ。  私は動かなくなった白金の鎧を着た兵士のもとへ行った。鎧の状態を確認すると、ところどころ亀裂が入っていた。熱された鎧に水がかけられて、急激な温度変化で物理的に崩壊したようだ。 「私の炎でも壊れなかったのに……ロベールのせいで壊れちゃったじゃない」 「だって、僕が水をかけなかったら……みんな死んでたよ」  ロベールが鎧を外して中の兵士を確認すると、兵士は酷い火傷をしていた。  私はロベールの冷たい視線を感じる。  そう、加害者は私…… 「重症だ。鎧で魔法は防げても、炎から生じる熱までは防げなかったんだ…」 「あれで死ななかったんだから、すごい鎧だね」 「このままだと死んじゃうよ。治してあげない?」  ロベールが私を見ている。まるで道端に捨てられた子犬のような目だ。そんな目で見つめられたら、 「分かったわよ、はい、回復(ヒール)」  兵士の傷はみるみる回復した。 ***  いろいろあったけど、死者はゼロ。違法薬物の取引をしていたシュミット子爵とマフィアは捕まえた。  私はロベールの出世のために、口裏合わせを男たちに伝える。 「今からあなた達を警察に引き渡します。警察に捕まった経緯を聞かれたら、この人、ロベールにやられたらと言いなさい。私は後方支援でロベールとあなた達の戦闘を見ていた」 「はぁ」 「私は何もしていなかった。分かった?」  シュミット子爵が遠慮がちに手をあげた。 「何か?」 「いえ、この焼けた倉庫はどう説明すればよろしいですか?」 「うーーん、そうね。あなた、タバコ吸う?」 「はい、吸います」 「小火(ボヤ)よ」 「は?」 「あなたが吸っていたタバコの残火が燃え移り……」 「でも、壁がドロドロに溶けています。さすがにタバコの残火では説明が……」 ――なかなか鋭いところを突いてくるな…… 「そうよ! 倉庫に油があったのよ! タバコの残火が油に燃え移って……壁がドロドロに…。これでいい?」  シュミット子爵は納得してはいない。イライラする私はシュミット子爵に念押しする。 「分かったの?」 「分かりました…」  私たちが倉庫から出ると、50人くらいの警察官が走ってきた。 「ほらっ」私はそう言ってロベールの背中を押した。  これにて一件落着!
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