王からの褒美

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王からの褒美

 シュミット子爵は違法薬物の取引の現行犯で逮捕され、その後の取調べによって余罪がいくつも発見された。  違法薬物で苦しむ国民を救済するため、没収されたシュミット子爵家の資産が活用されることになった。薬物中毒者の更生プログラム、貧困家庭の支援、両親を亡くした子供たちの保護などが救済プランとして予定されている。  結果として、シュミット子爵家は取り潰しとなり子爵家の椅子が一つ空いた。  私はその子爵家の空きを狙って、ロベールを子爵にするべくウィリアムズ公爵(父)経由で関係各所に働きかけた。  しばらくしたら、父から「王がデイジーとロベールに褒美を与えたいとのことだ」と言われた。きっとロベールの子爵昇進の件に違いない。  私とロベールは王が指定した日時に王城へ出向いた。私はロベールの昇進に胸を膨らませながら、王との謁見の間に入った。私とロベールはヘイズ王の前に跪(ひざまず)く。 「久しぶりだね、マーガレット」とヘイズ王は私に言った。  私のウィリアムズ公爵家は王族から派生した家。だから、ヘイズ王と私は親戚関係にある。  最後にヘイズ王に会ったのはヘイズ王立魔法学園に入る前。そうすると、1年以上会っていないのか…… 「お久しぶりにお会いできたこと、光栄で御座います。ヘイズ王立魔法学園に入ってからは、ご挨拶にも伺えず失礼いたしました」 「ほお、成績優秀で生徒会長をしていると聞いておったが?」 「まあご存じで!? 成績はこちらのロベールと学年1位を争っております」 「そうか、ヴァクト男爵家の長男と同級生だったのだな。それにしても、シュミット子爵の件はご苦労であった。二人には大変感謝しておる」 「有難きお言葉……」 「それでじゃ」とヘイズ王は言うと、側使いに書類を持ってこさせた。  ヘイズ王は書類に目を通して言った。 「ロベール・ル・ヴァクト、そなたに男爵の爵位を授ける」 ――えっ、男爵? 「ちょっ、子爵じゃないの?」思わずヘイズ王に抗議する私。 「ロベールは父親の死後、正式に男爵位を継いでおらんからの。家督を継ぐとはそういうことじゃ。まずは、爵位を持たねばならん」 「はあ。でも、シュミット子爵家が取り潰しになったのだから、ロベールが子爵でもいいんじゃないの?」 「まぁ、そういうがの……爵位を持っていなかった者がいきなり子爵になるのに反対する者もいるのじゃ……」  ヘイズ王のお茶を濁した言い方にイライラする私。  確かに、ヘイズ王の言うことは尤もだ。ロベールは正式に父の爵位を継いでいなかった。男爵位を継いでいなかったものは、まずは男爵となる。いきなり子爵になるのは前例がない。理屈では分かっているのだが、期待していただけにショックが大きい。 「誰が反対しているのです? オットー侯爵ですか?」と私はヘイズ王に質問する。  そんな私に対して、ヘイズ王は諭すように言った。 「マーガレットよ。気持ちは分かるが、いきなり子爵になることを好ましく思っていない貴族がいることは確かじゃ」 「だから、誰よ?」 「この件については、誰かは問題ではない。それに、シュミット子爵を逮捕したのはたまたま運が良かっただけ、という者がいる」 「はぁ? なにそれ? 伯父さんもそう思ってるの?」  ため口になっていく私。ロベールが「伯父さんじゃなくて…」と小声で言った。 「ああ、今はヘイズ王ね。失礼しました」と私は王に謝罪する。 「だから、その者たちにロベールの実力を認めさせる必要があるのじゃ。そのためにも、さらに手柄を立てなければならん」 「じゃあ聞きますけど……何件手柄を立てればいいのですか?」 「何件という具体的なものはないのだが、1件、いや2件は必要だろう。子爵とはそれほど重要な爵位じゃ」 「2件ですね。じゃあ、2件手柄を立てます」 「そうしてくれ」 「もし、2件手柄を立ててもロベールを子爵にしなかったら、ヘイズ王でも許しませんから」 「分かった、分かったから……マーガレットは昔から性格がアレだからな……」 「性格がアレとは?」 「アレじゃよ、アレ。のう?」  ヘイズ王はロベールの方を見て言った。ロベールは苦笑いしている。  ロベールを子爵にすることには失敗したが、ヘイズ王の言質(げんち)は取れた。 ――あと2件手柄を立てて、ロベールを子爵にする!  私は決意を新たにした。
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