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矛盾する気持ち
隼人さんから送られた浴室で撮った写真や、指の挿れられた四つん這いの写真を眺めながら、僕はズキズキする様な興奮を感じていた。
挿れられた写真は実際に際どいところは写って無かったけれど、ただポーズで四つん這いになっている時より妙に際どい感じがした。臨場感というものが伝わるとしたらそういう事なんだろう。
隼人さんは僕の気づかないうちに写真を撮ってたみたいだから、もっと際どいものを持っているのかもしれない。まぁそれは僕の推測に過ぎないけれど…。
週末にAIのミコトの新しい画像をアップする毎に、フォローワーが増えていくのが嬉しい様な怖い様な気がしていた。コメント欄も過激さを増していて、時々ドキリとするものまであった。
[ミコトの表のアカウント見つけた]
僕が持っているのは裏アカだけなので、誰かミコトに似た人が勘違いされているのかもしれないと思うと、罪悪感で心臓がドキドキした。隼人さんに会社帰りのダイニングバーで相談すると事もなげに言った。
「あーそれ、反応させて引っ張るやつだからスルーな。まぁ、元々ほとんどコメントに返事してないから大丈夫だと思うけどね。ちょっと人気が出過ぎたか。でも実際に際どさで言ったら前の方が赤裸々なポーズしてたよな。
やっぱり色気が増したんじゃないの、元の画像のね。」
そう言って揶揄う様に僕を見てくる隼人さんに、顔が熱くなるのを止められない。僕が俯いてつまみを食べていると、隼人さんが呟いた。
「…もしあれなら更新頻度下げたら?過熱させた俺が言うのもおかしいけど、やっぱりちょっと心配だから。」
僕はハッと顔を上げた。更新頻度を下げるという事は、隼人さんに色々教えてもらえなくなるという事なんだろうか。そんな僕の欲望にまみれた考えとは違って、隼人さんは心配そうな表情で僕を見つめた。
「さっきDM見せてもらったろ?ガチ恋勢が二人くらいしつこくDMして来てる。ちょっと熱くなり過ぎてる感じで、何するか分からないからな。洸太は顔が一緒じゃないけど雰囲気は似てるから、ピンとくるやつは判るかもしれない。
ブロックしたけど、ああいう手合いの奴はアカウント変えて近づいてくるからな。今はネットの人気者も大変だな。」
さっきまでの浮わついた気持ちはどこへやら、僕は不安で心臓が痛くなった。顔色が悪くなっていたんだろう。隼人さんは店を出ようと言うと、先に立って歩き出した。
「怖くなった?悪い、変に脅して。いや、用心した方が良いかなとは思ったんだ。…あのミコトの胸のホクロ、洸太と一緒だろ?あれはちょっと不味いな。結構特徴的だから。サウナとか行ったら、どこに居るか分からないフォロワーが見るかもしれないだろ。洸太はサウナとか行ったりするのか?」
僕はサウナと聞いて足を止めた。サウナというかジムでプールは使う。胸のホクロなど全然気にしなかった。僕とミコトは別の世界のもので、重なり合うことなんて無いと思ってたからだ。
今になって振り返れば、身代わりの印として僕のホクロをミコトに刻んだんだ。僕は誰かに見つけてもらいたかったのかな。でもこんな怖い状況で見つかりたかった訳じゃない。
「ジムでプールには入ります。」
隼人さんは少し考え込んで言った。
「ジムだと住所とか知られてるよな。客なら大丈夫だけどスタッフだと不味いかもしれないな。念の為ジム変えた方がいいか?あー、変えてもあれか。」
僕は自分のしでかした事で、こんなに日常に支障が出るとか思わなかった。少し凹んだ気持ちで、自分の浅はかぶりに薄く笑って言った。
「大丈夫です。自業自得ですから。上半身裸にならなければ良いんですから。」
隼人さんは少し困った様に僕を見た。
「今だけだ。ちょっと注目度上がってるから。まぁミコトとお前は基本別人なんだから、大丈夫だとは思う。念の為ってだけだ。取り敢えず、今週末はアップしないでみたら?…アップしないなら、新しい画像は要らないか?それともストック欲しい?」
隼人さんに暗に仄めかされて僕は喉を鳴らした。ああ、今週末も隼人さんの家にお邪魔したら、きっと最後までいくだろう。それは沢山の期待と少しばかりの不安だった。
黙って僕の言葉を待っている隼人さんに僕は思い切って言った。
「…ストック欲しいです。それにもっと教えてもらえる事ありますよね。」
そんな僕の顔を酷く真剣な表情で見つめていた隼人さんは、少し笑って前を向いて歩き出した。
「ああ、そうだな。洸太に教えなきゃいけない事、まだあるな。」
そう言う隼人さんの声がいつも違って聞こえたのは僕の気のせいだろうか。僕はスタイルの良い後ろ姿を見つめながら一歩後ろをついて歩き出した。
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