相談

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相談

 結局僕は自業自得とも言えるこの状況に耐える事ができずに、隼人さんにメッセージを送った。 『変な手紙がポストに入ってて…。相談したい事があります。良かったら連絡下さい。』 午後に既読がついて、返信が来た。 『仕事が早く済んだから、昨日遅くにこっちに戻ってたんだ。さっき起きたところ。用意出来次第そっちに行く。』 僕は隼人さんのメッセージを見つめながら、何度も読み返した。昨日の夜、もうこっちに戻ってた?僕が知らない相手と軽はずみな経験をしてる時、隼人さんはもう戻ってたんだ。    それは何だかやり切れない気持ちだった。自分勝手なのは棚に上げて、金曜日に隼人さんが戻るなら、僕はきっと夜の街に行かなかった気がした。本当自分の身勝手な気持ちに反吐が出る。 僕は隼人さんと関係を終わらせなくちゃって考えてたのに、怖いからって我慢できずに助けを求めて…。だからと言って、今更来ないでと言う勇気も気概も無かった。僕はとことん狡い人間なんだ。  「どうした?」 心配そうな表情の隼人さんの顔を見て、思わず安堵と恋しさを感じてしまった。でも僕は黙って突っ立って居るばかりで、眉を顰めた隼人さんが、僕をそっと抱き寄せた。 途端にポストの手紙、怖いDM、そして自分の身勝手な一夜が脳裏をぐるぐる回って、僕は隼人さんにしがみついていた。そんな権利は一つも無かったのに。 気がつけば僕は部屋のベッドの上に座り込んでいて、冷蔵庫から取り出した冷たい水を隼人さんに渡された。 「…なんかショックな事があったみたいだな。まったく、俺が出張で二日いないだけでこれって、洸太は危なっかしいにも程があるぞ?」  僕はスマホのDMを隼人さんに見せた。隼人さんは眉を顰めたものの、肩をすくめてサクッと削除してしまった。 「こんなの普段もあったよ。別に怖いほどのことでも無いだろ?」 僕は首を振ってポストに入っていた僕の『ミコト』の画像プリントの事を話した。流石に隼人さんも目を見開いていたけど、慌てた様子は無かった。  「…他のポストにも入っていたかもしれないな。画像アップする時に、所在地が出てしまった事はないか?あれが出ると、大雑把なエリア出ちゃうからな。」 僕は首を振った。身バレが怖くて一番気をつけて居るのに。でもうっかりしてしまったのだろうか。すると隼人さんが僕に尋ねた。  「それって、いつ気付いた?」 僕は分かりやすく身体を強張らせたのかもしれない。朝帰りのあの時間にポストを見た事を言わなくちゃいけない。僕は息を呑んで、掠れた声で呟いた。 「今朝、5時ごろ…。」 急に空気が重くなったのは、気のせいじゃない。僕は隼人さんの顔を見れなかったけど、突き刺さるような視線を感じる。何か言った方がいいんだろうか。でも僕たち付き合ってないよね…? 言い訳するような関係じゃないはずだけど、僕は後ろめたくて堪らない。でも本当の事を言う勇気も無い。 「…そんな時間に帰って来たんだ。」  僕は身体を強張らせた。もう泣きたい。自分が馬鹿すぎて、何を言っても言い訳になって、そんな言い訳を隼人さんが欲しがってくれない可能性が、僕を黙らせた。 「どこ行ってた?」 隼人さんは珍しく追求の手を休めなかった。いつもならスルーされて終わりになりそうなのに。僕はちょっとだけ僕らの未来に希望があるのかと、隼人さんの顔を見た。 優しく笑っているのに、何だか怖い。僕はもう色々耐えられなくて全部吐き出していた。  「隼人さんと指導ペアが終わったら、もう今みたいな時間が無くなるんだって思ったら、何か辛くなって。これじゃ前と一緒だと、思い切ってあの街に行ったんです。前は無理だったけど、今なら行ける気がして。 あからさまに誘われたけど、怖くて一度目は断ったんです。でも楽しかった。自分がありのままで居られる場所は…。でもすっかり遅くなってしまって、一緒に飲んでた優しい男が泊めてくれるって誘われて。自分と同じだと思ってたらどっちもイケるって言われて。 結局無理強いされたわけじゃ無かったのに、寝たんです。…好きでも無い相手と寝るなんて虚しいって、正直寝ないと分からなかった。この事を隼人さんに知られたく無かった。あと1ヶ月今まで通りに過ごしたかったから。」    僕は隼人さんに呆れられただろうけど、全部言えてどこかホッとしていた。すると隼人さんは僕に近づいて言った。 「俺と寝た時も虚しかった?」 僕がハッと顔を上げると、何を考えているのか分からない鋭い隼人さんの眼差しに縫い取られていた。僕は首を何度も振ると、やっぱり喉の奥が詰まってしまったけど、搾り出すような掠れた声で呟いた。 「違う!ドキドキして…。」 ベッドに腰を下ろした隼人さんが僕の腰を引き寄せて、目をすがめて言った。 「洸太、俺のこと好きなのか?」
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