片桐チーフside三登洸太

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片桐チーフside三登洸太

 新規事業のコンサル部門に、二年目の三登洸太が異動してきたのは今年の春のことだった。ぱっと見いかにも真面目そうな三登に対外交渉がメインになるコンサル部門が向いているかは疑問に思えたが、話では二年目の社員の中では優秀だと言う話だった。 新規事業で人材が育っていない事もあり、指導ペアにチーフである自分が選ばれた時は面倒だなと正直思った。そうは言ってもチーフの俺が断ることなど出来なくて指導をする事になったんだが…。    正直言って、三登は少し生真面目さが邪魔をして不器用なところが見受けられた。他人に甘えたり、聞く事に躊躇するせいで余計な時間が掛かる。業務が一年目とまるで違うので本当は周囲に遠慮なく聞いた方がやり方が身につくと言うものだが、そこまで図太くない様だった。 ただこちらが指摘したところは同じ間違いはしないし、呑み込みも早いので優秀は優秀なんだろう。けれど、ひと皮剥ける様な何かキッカケが必要な気がしていた。実際指導ペアの俺にも随分恐縮して、完璧にしようとするあまりミスが出ると言う具合だった。  だからフォローするつもりでこっそり残業している三登のデスクで、次々に着信の表示が現れては消えるのを目にした時、思わず手に取って眺めてしまったのも無理はないだろう。 ミコトと言う名前には見覚えがあった。一年ほど前からSNSで時々流れてくる#ゲイで目を惹かれてフォローしていたからだ。目元を手で隠して、ぎこちなさが感じられるポーズはどこか庇護欲を感じさせた。 そう思うフォロワーは多い様で、最初は可愛いと褒めるだけだったフォロワーのリクエストコメントに答える様に、段々と大胆なポーズになっていく『ミコト』にどこかしら危なっかさを感じた。  そして時々目ははっきり開いていないものの顔を一部晒す時もあって、保護者の気分で大丈夫なのかと見守っていた。とは言いつつも、俺自身もミコトを楽しんでいたのは確かで、そのミコトに対するコメントが三登のスマホから着信として流れてくるのは一体どう言う事なんだろうか。 暗い入り口から三登が走り寄って来て手の中のスマホを奪われた時に、思わず三登に脅迫する様な意地の悪い事を言ったのは無意識だった。 けれども目の前で怯えた眼差しで俺を見つめる三登が、初めてこちらの人間に遭遇したと何処か無邪気な表情で呟いた時に、俺はゾクゾクとここ数年感じたことの無い興奮を覚えた。  そこからは簡単だった。怯えと好奇心と諦めをその時々に滲ませながら、素直に俺の後を着いてきて俺の家に連れ込まれる三登に、俺は心の中で何て危ういんだと少し怒りさえ感じていた。 目の前の三登はAIで作られたミコトとは別人だけれど、どこかしら醸し出す空気感はまるで同じで、それは不思議なほどだった。自分の画像も取り込んでいると聞いてからは、俺はミコトをもっと人気者に押し上げる事が出来ると確信していた。  三登洸太はAIに同化しなくてもそもそも魅力的な人間だった。本人のキャラ的打ち出しが弱いから目立たないだけで、大きめの瞳はよく見れば明るい焦茶で色素が薄かった。ミコトよりふっくらとした唇は色白のせいか色素が濃く感じられる。 バランスの取れた細身の身体は、ミコトとそう変わらなく見える。最近は下着姿でのアップが多いせいか、俺はそれを思い出して少し股間が熱くなってしまっていた。 ミコトへのコメントも大胆なポーズが増えるに従って[ぶち犯したい]だの、[DM送りました]など、なかなかの生々しさだ。ただ、まるで個人情報がわかる様なものが一切映り込んではいなかったのは、確かに生真面目な三登が作るAIだからだったのかと妙に納得させられた。 俺は妙に浮かれた気分で、この真っさらな生身の三登と言う人間の経験値をあげてやろうと、どこか親心だと言い訳をしながら三登に迫っていた。  そんな俺の前で笑っていた三登が不意に泣き出した時は、俺の罪悪感はマックスになった。けれども酔った三登が俺の事はタイプじゃないと公言して、現実では何も無いと寂しげに吐き出すのを眺めていたら、俺はこの可哀想な男にレクチャーぐらいしてやっても良いだろうと顔を覗き込んでいた。 俺を赤らんだ顔で見上げる三登の期待と怯えを感じて、俺はもう止まれなかった。赤い唇は想像より柔らかでぎこちなかった。そのぎこちなさが若い頃から遊んできた俺の心の奥を鷲掴みにして、俺は加減もせずに三登とのキスに夢中になった。  俺のする通りに真似してくる三登は可愛かったし、こんなにキスが楽しかったのもいつ以来だろうか。俺は没頭する自分をせせら笑って、ポケットからスマホを取り出すと顔を引き剥がした三登の顔を連写した。 目の前の馬鹿色っぽい三登は映しきれなかったけれど、今までに無い表情のミコトが爆誕するのはその時点では確信に変わっていたんだ。 だから、また簡単に部屋に連れ込まれた三登が、興奮と驚きが交差した表情で新しいミコトの反応を見ているのを眺めながら、心の奥がチクチクと感じるのを分析しきれずに、俺は次の画像を撮ろうと口に出していたんだ。
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