浴室※

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浴室※

 目の前の鍛えられた裸の上半身を息を呑んで見つめながら、僕はシャツのボタンを外した。既にズボンは脱いでしまっている。下着は履いているとは言え、昂った自身が見られているかと思うと恥ずかしい。けれどますます興奮は収まらない。 初めての色々は好きな相手だったら良かったかもしれないけど、出会える場所にさえ出掛けられない僕には、恋愛自体ハードルが高すぎた。だから片桐チーフが僕と同じ同性愛者で指南してくれるのは、僕には渡りに舟の筈だ‥よね? そっと片桐チーフの顔を窺い見れば、僕が脱ぐのを辛抱強く待っているみたいだった。急に自意識過剰になった僕は指先が滑ってボタンを外すのにも難儀してしまった。  「…ふ。三登はわざとじゃないのに、焦らすのが上手いな。相手の期待値を上げるのは駆け引きとしてはアリだと思うが、そろそろこっちに任せてもらおうか?」 そう言うと、ようやく全部外したシャツの中に両手を差し込むと背中を抱える様に僕を引き寄せた。そして僕を覗き込んで言った。 「どうしたい?キスしたい?」 174cmの僕との身長差が丁度10cmちょっとあるせいで、少し見上げる様な感覚で片岡チーフの唇をじっと見つめた。キス、あの甘くて癖になる様なキスを思い出して僕は無意識に唇を開いた。  「直ぐに学習するから、やっぱり三登は優秀だな。」 そう笑いながら僕に覆い被さってくるチーフの唇は、記憶通り柔らかくて甘かった。焦らす様に#啄__ツイ__#ばんだり、吸いあって、ついには舌を突き出す僕を喰んだ。甘噛みされて引っ張られて、僕は身体をなぞる片桐チーフの両手にも追い詰められてゾクゾクしっぱなしだった。 胸の先を引っ掻かれてビクンと震えると、僕の首筋をなぞるチーフの唇がチクリと痛みを与えた。  「色が白いから、思わずキスマークつけたくなった。見えにくい場所ならいい?」 そう言われて僕は今の痛みが印づけられたせいなんだと知ったんだ。ああ、何も知らない僕が一つずつ教えられて爛れていく。それは望んでいた事だけど、教えてくれるのが会社の上司だと言うのが不思議な気がした。 「…片桐チーフは結婚してませんよね。恋人は?」 唐突に口から飛び出した言葉に自分でも驚いてしまった。チーフは整った涼し気な顔で僕を見上げて、胸の天辺にキスして言った。 「どうした、急に。真面目な三登の事だから誰かが傷つくかもしれないと思ったのか?見ての通り俺は一人暮らしで独身だし、今は恋人もいない。そうじゃなきゃ三登を連れ込まないだろ?安心しろ、俺たちがこうしていても誰も傷つかないから。」  不意に下着の中に手を入れられて、僕はその衝撃に呻きながら僕を睨みつける片桐チーフを息を荒げながら見下ろした。 「しかし無粋な事を言って空気を読まない三登には、お仕置きが必要だな?」 そう言われて息を呑むと、僕の昂りをチーフの指先で捏ねられて、僕はもどかしいその動きに甘く呻く様なため息を続けるしかなかった。気づけば裸の上にシャツ一枚の姿の僕は、全裸のチーフと一緒にシャワーに打たれていた。 身体に張り付くシャツを感じながら、抱きしめられて口の中を蹂躙されている僕は、熱い頭でも時々鋭く覚醒した。  抱きしめられているせいか、お互いの昂ったものが触れ合って押し付けられて、それが疼く様な気持ち良さで、只々卑猥だった。不意に身体を離されて浴室のダークグレーの壁に寄り掛かった僕に、シャワーの雫がポタリポタリと滴り落ちた。 「目元、手で隠して。」 そうチーフの声がして、僕は操り人形の様に目の上に手の甲を押し付けた。 「舌出して…。」 僕はチーフの声が掠れているのを感じながら、何処か現実味のないこの瞬間を楽しんだ。僕は自分が思うよりも真面目じゃないのかもしれない。  もう一度引き寄せられて、僕は目の上の手を片桐チーフの肩に置いた。自分も決して筋肉が無いわけじゃないけれど、チーフの肩は実際に触れてみると無駄なものが無かった。 ゆっくりと手の下の引き締まった肌をなぞりながら、無意識に息を殺していた僕をチーフはじっと見つめていた。視線を感じて目を合わせると、妙に熱のこもった眼差しがそこにあった。  「…そんな風に俺を楽しまれると、こっちも煽られるな。何の経験も無いって、ある意味最強なんだって気づいたよ。さぁ、今夜はどうしようか。キスの次は触り合いっこか?三登は…。なぁ、こんな関係なんだ。チーフとか呼ばれると興醒めだ。俺のことは隼人で良い。お前は洸太、良いだろう?会社とは関係ないんだから。」 チーフに洸太と名前で呼ばれて、僕は一歩会社の上司から関係が変化したのを感じた。それは妙にくすぐったくて、どんな顔をしたら良いのか分からない。 でもそんな事は直ぐに考えなくて済んだ。濡れたシャツを引き剥がされて、僕たちは抱き合いながら馬鹿みたいにキスし始めたからだ。  
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