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玄関に向かった私の心は一気に落ち込んだ。
小3の従兄弟がからかわれるなら、小4の私が年下とビニールプールで遊んでるなんて、もっとからかわれるに違いない。
もしかしたらビニールプールは幼稚園児くらいの、もっと小さい子が遊ぶものだったのでは…とも思い、途端に恥ずかしくなった。
男子達に馬鹿にされたことで一気に現実を突きつけられたような気がした。
あんなに楽しくてなりきっていた人魚も所詮、本物のヒレや鱗は私にはないし、かわいい貝殻も胸にはつけていない。
あるのはスクール水着にマジックで「4-3」と「苗字」が記されたゼッケンだけだ。
トイレなんて建前で尿意は全くなく、わざわざ水着を脱いで本当にトイレに行くのも面倒だったので、私は仕方なしにポタポタと髪や水着から滴る雫を玄関で呆然と眺めて時間をやり過ごしていた。
「どうしたの」と私を迎えに来た従兄弟に力なく
、「うん、もうトイレ終わった」と返事をしたのは言うまでもない。
従兄弟との一件があったことから、庭でのプールのことをクラスメイトに話すのはやめようと心に決めた。
言ったら従兄弟のように笑いものにされるだろう。
そうだ、童話の人魚姫も本当の姿を人間には見せていないのだ。
人魚姫であることは絶対に秘密なのだ。
そう思って気持ちを切り替えて、自宅のビニールプールで熱心に泳ぐ日々だった。
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