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「日本って四つも季節があってお得だなって思ってたけど、実際のところ暑さに慣れる前に寒くなるし寒さが馴染む前に暑くなるから全然身体がついていかなくて、もしかしてどこの国よりも過酷なんじゃないかって思うんだよね」
「ちょっと風邪ひいただけで大袈裟なんだよ」
こほこほ、と咳をしながら首まで布団に埋まっている水川の額に冷えピタを貼る。「うわあ冷える~」と意味不明な呻き声を上げた。
「いやどうして私がこんなことになってるんだろうって改めて考えちゃってさ。ズバリ夏が終わるからなんだよね。夏が終わって秋が来るから温度差に耐えきれなくなってこうなっちゃったわけ。日本が常夏ならよかったのに」
「夏は暑いから苦手だな」
「川に入ればいいんだよ、久利くん」
「水泳も苦手なんだ」
「だったね」
流れる川のように止めどなく喋り続ける水川を黙らせるために僕はスポーツドリンクを差し出した。「うわあ潤う~」と彼女は結局黙らずにそれを口にする。
声を聞く限りは元気そうに思えるが、頬は朱く染まっており、まだ熱は下がってなさそうだ。さっきまで倒れそうだったことを考えればだいぶ回復してきたみたいだけど。
水川から飲み終えたボトルを受け取り、僕はベッド脇に座る。
「にしても久利くんのベッドふかふかで最高だね。彼女になってよかったあ」
「どこで再評価してんだよ」
僕はそう返しながら、改めて恋人が自分のベッドで寝ているという状況を意識し始めた。下校中に体調を崩していた彼女を思わず連れてきてしまったが結構大胆なことをしてしまったかもしれない。
いや、と僕はすぐに思い直す。
仕方ないだろ。さすがに熱がある彼女をあんな場所に帰すわけにはいかない。
九月の川ってもう結構冷たいしさ。
「だって河童ってベッド使わないんだもん」
「河童ってそうなんだ」
「うん」
人と河童の間に生まれた彼女は、そんなの当然とばかりに頷いた。
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