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「これってもう食べていいの? まだ年越してないけど」
「むしろ年越し前に食べ終わらなきゃダメらしいよ」
「へえ、年越しそばなのにねえ。じゃあいただきまーす」
彼女がそばを啜ると、もわっと白い湯気が舞った。そばを頬張った水川は嬉しそうに微笑んで、僕の器をちらりと見る。
「あ、久利くんの天ぷら一口ちょうだい」
「え、なんで」
「だってこんなおっきいエビ食べたことないんだもん。川にはいないしさ。ほら、キュウリ天もあげるから」
僕たちは器を交換して、それぞれの天ぷらを齧った。
サク、という衣と、シャリ、というキュウリの食感が聞いたことのないハーモニーを奏でる。意外とおいしい。隣では水川も「エビうまっ」と驚いている。
二人がそばを食べ終わったところで、テレビの中でカウントダウンが始まった。
「わ、くるよ!」
時計が0:00を示す。同時にテレビの音がわっと盛り上がる。
除夜の鐘の最後の一突きを見届けてから、水川は僕のほうを向いて微笑んだ。
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
僕は彼女の頭に手を伸ばす。
夏が終わったら秋が来て、冬を越えれば春が訪れる。
四つも季節があるこの国で、色々ちがう僕たちは今年も同じ時間を過ごしていく。
エビもキュウリも味わいながら。
「こちらこそよろしく」
「うわあ潤う~」
(了)
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