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*** 「水川の家にも行ってみたいなあ」  きっかけは僕のその一言だった。  春に付き合い始めてから二ヶ月が経ち、何度か僕の家には遊びに来ていたが一度も彼女の家には行ったことがなかったのだ。かなり勇気を振り絞った言葉だった。  少し間が空いて「……わかった。明日の放課後でもいい?」と返ってきた。  その時の水川が深刻な顔をしているのは気になったが、あまり口を出してせっかく取り付けた約束が無くなるのも嫌だったので僕は静かに頷いた。 「私、河童と人間の子なの」  女の子の家って初めて行くけどこんな山奥にあるの? と不安になるほど長い山道を抜けた先に彼女のはあった。  その川は幅が広く、流れが速かった。  水面はキラキラと太陽光を反射させていて美しい。底に転がる石の形や魚の影まではっきりとわかるほど透き通った清流だ。 「へ、河童?」 「ハーフだけどね。河童ハーフ」 「ヴァンパイアハーフみたく言われても。ダブルとも言うらしいね」 「ほら、水かきもあるでしょ?」  水川は手をパーの形にして僕の顔に突き付ける。  しかし僕には判別できなかった。言われてみれば指と指の間の肌色が水かきに見えなくもないが、その小さな手の形は普通の人間と変わらない。 「河童ってことはお皿とかもあるの?」 「あるよ」 「え、どこに」  思わず僕は彼女の頭を見る。しかし一般的な河童のイメージのように、そこに皿はなかった。水川は両手をぎゅっと胸の前で組む。 「私たちはみんな心に一枚のお皿を持ってるの」 「何言ってんだこいつ」 「あ、今の暴言でヒビ入った」 「繊細な皿だな」 「私のおうちはそこだよ」
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