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ピピッ、と軽やかな音が静寂を破った。
もぞもぞと布団にくるまっている水川が動くと、手だけが外に出てきた。その手には体温計が握られている。
「あ、熱下がってきたかも」
「そりゃよかった。でもまだ微妙に治ってなさそうだし、もう少し寝といたほうがいいな」
「じゃあお言葉に甘えて」
僕に体温計を渡して、水川の手は再び布団の中に戻っていく。
そのとき触れた指先の感触にちょっと驚いて、その体温計に残っていた彼女の温度にまたちょっと焦る。
「あーあ、なんかダメだね。弱気になっちゃって。これじゃただのネガティブ河童人間だ」
「全然ありふれてないんだよ。まあでも体調崩してるときはそんなもんじゃないか」
「じゃあ弱気ついでに、ずっと気になってたこと訊いていい?」
その『気になってたこと』が楽しい質問ではないことはすぐに察した。しかし僕が返事をする前に水川は「久利くんさ、私に告白してくれたでしょ」と続ける。
「あのときの久利くんめっちゃ緊張しててかわいかった」
「なんだよそれ」
「いやあちょっと思い出しちゃって」
くすくすと小声で笑って、水川はちらりとこちらを向いた。僕は思わず目を逸らす。僕も告白のときのことを思い出してしまっていたからだ。
「すごく嬉しかったよ、あれ。即OKしちゃった」
「そりゃよかった」
「でもあの後冷静になって、ちょっと不安になっちゃったんだよね。久利くんが告白してくれたとき、私が半分河童って知らなかったわけでしょ」
「ああ、まあな」
「だよねえ。そんな可能性考えるわけないもんね」
こほ、と水川は小さく咳込んだ。
「……私と付き合ったこと、後悔してない?」
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