3

2/3
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 ピピッ、と軽やかな音が静寂を破った。  もぞもぞと布団にくるまっている水川が動くと、手だけが外に出てきた。その手には体温計が握られている。 「あ、熱下がってきたかも」 「そりゃよかった。でもまだ微妙に治ってなさそうだし、もう少し寝といたほうがいいな」 「じゃあお言葉に甘えて」  僕に体温計を渡して、水川の手は再び布団の中に戻っていく。  そのとき触れた指先の感触にちょっと驚いて、その体温計に残っていた彼女の温度にまたちょっと焦る。 「あーあ、なんかダメだね。弱気になっちゃって。これじゃただのネガティブ河童人間だ」 「全然ありふれてないんだよ。まあでも体調崩してるときはそんなもんじゃないか」 「じゃあ弱気ついでに、ずっと気になってたこと訊いていい?」  その『気になってたこと』が楽しい質問ではないことはすぐに察した。しかし僕が返事をする前に水川は「久利くんさ、私に告白してくれたでしょ」と続ける。 「あのときの久利くんめっちゃ緊張しててかわいかった」 「なんだよそれ」 「いやあちょっと思い出しちゃって」  くすくすと小声で笑って、水川はちらりとこちらを向いた。僕は思わず目を逸らす。僕も告白のときのことを思い出してしまっていたからだ。 「すごく嬉しかったよ、あれ。即OKしちゃった」 「そりゃよかった」 「でもあの後冷静になって、ちょっと不安になっちゃったんだよね。久利くんが告白してくれたとき、私が半分河童って知らなかったわけでしょ」 「ああ、まあな」 「だよねえ。そんな可能性考えるわけないもんね」  こほ、と水川は小さく咳込んだ。 「……私と付き合ったこと、後悔してない?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!