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 それからまた静かな時間が二人の間に満ちた。  目元を覆うほど布団を引き上げた水川の表情は見えない。泣いているのか笑っているのかもわからない。  しばらくお互い沈黙が続いた後「ねえ、久利くん」とくぐもった彼女の声が聞こえた。 「頭なでて」 「え、なんで」 「知らないの? 河童のお皿って乾いたら死んじゃうんだよ」 「いや聞いたことあるけどなんで」 「いいからいいから」  突然のお願いに戸惑ったが、僕は水川に言われるがまま彼女の頭に手を乗せた。ゆっくりと動かすと、やわらかな髪の毛の感触が手のひらに伝わる。 「これでいいの?」  彼女の小さな頭を撫でながら尋ねると、水川はひとつ頷いた。  それからゆっくりと布団から顔を出す。 「……うん、潤った」  熱のせいか耳まで真っ赤にした彼女は、満面の笑みでそう言った。 「久利くん。もっと」 「え、まだ?」 「知らないの? 河童って頭撫でるとどんな病気もすぐ治るんだよ」 「……ほんとに?」 「あっ! 愛する彼女のこと疑ってる! サイテー!」  クレームが飛沫のように勢いよく飛んでくるので僕は観念してまた手を伸ばす。こちらに河童の常識がないのをいいことに適当なこと言われてる気がするが、まあいいか。  彼氏が人間で良かったって向こうにも思ってほしいしな。  僕はさっきよりもゆっくりと、優しく彼女の頭を撫でた。 「早く風邪治して、残りの夏全力で遊ぼうな」 「うん。ありがと」
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