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「人間っていろんなスゴいもの作るけど、その中でもこたつは世紀の大発明だよね。これがあるだけでどんなとこでも夏になるんだもん。まさか常夏を作っちゃうなんて。四季を楽しむ日本においてはある種の反乱にも見えるけど、もはや風物詩のひとつとしてポジション取りしてるのもニクイなあ。ちょっと狭いのがアレだけど」
「うちのこたつ占領すんなよ」
喋るこたつに声をかけると、ひょっこりと水川が頭だけを外に出した。その姿は河童というより亀に近い。
「だってうちの家、凍っちゃって入れないんだもん」
「今年の冬は厳しいって聞いてたけど、川まで凍るとか災難だったな」
「外来種に日本の恐ろしさを思い知らせることができて最高の気分よ」
「冬の河童って性格歪むんだ」
「まあそういうわけだから今年はここで冬眠します」
そう宣言した水川の頭はごろりと上を向く。
夏が終わり秋の深まった頃、いざ冬眠と向かった川が凍っており帰れなくなった水川は僕の部屋に居候していた。学校には病気で休学と伝えてあるらしいが、こたつと暖房の力で夏より元気だ。
「だらだらしてないで手伝えよ」
「冬眠中だから無理でーす」
「これが欲しくないのか?」
頑として動く気配のない水川に見せつけるように、こたつの上に湯気の立ち上るお椀をどどんとふたつ置いた。
片方の器には大海老天、もう一方の器には長いキュウリの天ぷらが乗っている。「わーこれが噂の!」とこたつから水川が飛び出してきた。
「これが年越しそばかあ。いやあわくわくするね」
「そうか? 普通のそばだけど」
「だって初めてだもん。なんでも初めてはどきどきわくわくでしょ」
「まあ、そうかも」
そうか、と彼女の言葉に気付かされる。
だから僕はどきどきしてるのか。
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