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「今度、飯でも行こう」
「え?」
「せっかく久々に会えたんだし。……それともそういうの、ダメか?」
「ダッ、ダメじゃないけど……!」
「酒は?飲める?」
「う、うん、強くはないけど飲める……」
「OK」
言いながら彼は自分の名刺を取り出して、その裏にサラサラ、と何かを書きつけた。
「これ、オレのLIN〇のID。あとでちゃんと送っといて」
それからそれを私の抱える資料の間にスッと挟んだ名桐くんは、ポカンとしている私に「じゃ、またな」と綺麗に微笑んで、そのまま私を追い越して行ってしまった。
「おーい、名桐、置いてくなよー!」
するとミーティングルームからたった今出て来たらしい渋谷さんが、私にすれ違いざま「お疲れ様でした!これからよろしくお願いしますね」とにこやかに声を掛けて、そんな彼を追いかけて行く。
その背中に慌てて「はい……っ」と答えた私の返事は届いたのかどうか。
割と激しめに小突かれたらしい名桐くんの「……ってーな」と言う不機嫌そうな声と、「まぁまぁ」と宥める渋谷さんの声が徐々に遠くなって……。
ーー……あれ⁉︎何だか流れるように連絡先を渡されてしまったけれど、何ていうか、誘い方から連絡先の渡し方まで、随分とこなれていらっしゃったような……。
名桐くんって、あんな感じだったっけ……?
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