3、秘密の放課後

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ーーそれ以来彼はフラッとやって来て、最初は必ず外を眺めているけれど、そのあとは漫画を読んでみたりスマホを弄ってみたり。 そんな感じである程度時間を潰したら、またフラッと帰っていく。 まるで、気まぐれな野良猫みたいだった。 そんな風に私たちは同じ空間で時間を共有し、お互いの存在を視界の端に入れてはいるけれど、でもこれといって特に干渉することはない。 それが不思議と心地良くて。 そんな毎日が何となく続いていた十月中旬のある日。 名桐くんのイヤフォンの片方が、耳につけそびれたのかポロリと落ちて、コロンと私の足元に転がって来た。 ちょうどスクールバッグから問題集を取り出すところだった私は足元からそれを拾い上げ、「どうぞ」と手渡そうとしたけれど、その時ふと、いつも彼が何を聞いているのかが気になった。 気怠げに、だけど何となく憂いを帯びた様子で外を眺めながら聴いている曲。 「名桐くんは、外を見ながらいつも何を聞いてるの?」 「……聞く?」 「いいの?」 すると、私の手のひらに乗っていたイヤフォンを摘んだ彼は、返事の代わりにそれを制服の裾で無造作に拭いてから、そのまま自分の耳ではなく私の左耳につけてくれた。 あまりにも自然で流れるような仕草。   鼻先で香る彼の爽やかな香水の匂いと、耳元にちょっとだけ触れた、少しひんやりとしたその指先に動揺してしまった私の肩がピクリと揺れた。 でも、そんな私を気にすることなく名桐くんはスマホを操作している。 そして耳に流れ込んできたのは何と、ピアノの曲。 彼が聞いていたのは意外なことに、クラシックだったのだ。 てっきり勝手なイメージで、流行りのJ-POPとか、もしくは洋楽辺りでも聞いているのかなぁと思っていたのに。
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