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力の覚醒
私には、幼い頃の記憶があまり無い。
いや、あまりと言うよりは、断片的に浮かんで来ると言った方が正しいのかも知れない。
母から聞かされているのは、生まれながらに病弱だったらしい。
パジャマ姿だろうか?
まだ四つか五つに感じる。
左の手首には、部屋の番号札のベルトが巻かれていた。確か、[ 1-A ] だっただろうか?
後になって、母が教えてくれた。
病室のような空間、机の前で椅子に座っている。
机の上にはトランプみたいな、真っ白なカードが何枚も並べてあるのが見える。
何をしているのか?
あ、頭が痛い。
これは同じく椅子に座って、テレビモニターを見ている。
こめかみや心臓、指先や両手首にもコードが繋がっていて、大人達があれこれスイッチを操作している。
たまに流れる電気に、指先が痙攣した。
涙が出てくる。
暗いベッドの中で泣いていた。
お母さんに会いたい、と考えてた事は薄らと覚えてる。
いつからいつまで入院していたのか?病院生活は長かったのか、それもよく覚えていない。
何故なら、我が家での生活したイメージが全く無かったからである。
それでも、退院した日の事は覚えている。
確か七つの頃だ。
初めて見る様な我が家に、戸惑っていたような、それでいて少し安心したような記憶がある。
その時は大きな一軒家だと思っていたが、今では何てことない、間口二間程の小さな二階建ての借家だ。
私は一年遅れて小学校に入学した。
初めての学童生活に、人付き合いも不慣れな私は、中々クラスに馴染めない。
だから、いつも一人でいる事が多かった。
しかしそんな私にも、一人二人と声をかけてくれる友達も出来た。それがなんだか嬉しかった。
でもその友達も、あくまで学校内での暇つぶしだったのか、次第に私から離れて行き、また一人ぼっち。
勿論、放課後に誰かと遊ぶ事は一度もなかった。
でもその中で、一つだけ分かった事がある。
みんなには両親がいるのに、私には父親がいないと言う事だ。
どの家も親は一人だと思っていたので、驚いた私は家に帰ると、母に訳を訊ねた。
「あなたが小さい時に、病気で亡くなったの」
「どうして教えてくれなかったの?」
「もう昔の事よ」
「写真はないの?」
私は父親の顔を知りたかった。
母は首を振り、一言「昔の事だから」と同じ事を繰り返し、台所へと入って行った。
今思えば、父親の事を話したのは後にも先にも、これが最初で最後だった。
父親の話に触れちゃいけない。
そんな雰囲気があったからだ。
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