二.

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  二.

 霧が出てからどのくらい経っただろう。  カレンダーやテレビを見て正しい日付を確認しても、なんだかピンとこなかった。下手をすると、時刻すら、うっすらとしか理解できない。七時四十分! 七時四十分! とテレビの中で、キャラクターが時刻を告げる。  時間の流れから切り離されてしまったような感覚がずっと続いていた。  先生に振られてから、ずっとこんな調子だ。  身体が重い。  テレビによると、今日は木曜日。  相変わらず高校は霧休みだし、受験勉強も今は意味をなさない。  携帯を見ると、同級生から遊びの誘いが入っていた。私は昼過ぎにダラダラと家を出て、自転車で町へと向かった。  今日も新井指の川辺に火が灯っている。  小雨がぱらつくこの天気の中、よく消えずにいられるものだ。  小河の駅がある場所は私の住む集落より多少は栄えていたが、観光案内所と土産物店と民宿、それに数件のスナックがあるような寂れた場所だった。そのスナックが実家だという同級生がいて、店の営業時間外にカラオケをするのが仲間内の定番の遊びだった。  いつものメンバーで菓子と飲み物を持ち寄り、ヤニくさい店内で騒ぐ。私は特段歌いたい気分でも騒ぎたい気分でもなかったので、ただジュースを飲んだり、分厚い冊子を意味もなく開いて、歌えもしない流行歌のランキングをずっと眺めたりしていた。  日が沈む前に遊びは終わった。  私は何となく、家に帰る気にならなかった。残った同級生たちと近くのたこ焼き屋に入り、たこ焼きとコーラで小腹を満たすことにした。誰かが「あれ、この店におばちゃんいたっけ?」などと店員に言って「いたわよ昔から!」などと怒鳴られていた。そんな気の抜けたやり取りがあったあとで解散して、それでも帰りたくなかったので一人で自転車に乗ってあたりを散策した。
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