二.

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 店を出て煙草を一本だけ吸うと、先生は私を車で送ってくれるといってくれた。私は断ったが、きみになにかあったら私が責められる、と、半ば強制的に送ってくれることになった。自転車は先生の古い軽ワゴンのトランクになんとか収まった。  車の中で、先生は小さく「私も叶わぬ恋をしたことがある」と呟いた。 「今も忘れられない。もう二十年経っているのにね、」 「……そう。」  二十年といえば、先生がまだ高校生だった頃だ。  私の父と同じ、高校生の。  フォグランプが深い霧を照らし、その深海のような世界を車は奥へ奥へと走っていく。 「忘れられないだけ? それとも、今も好きなの」 「どうかな、」  ハンドルを握り、フロントガラスの向こうを見つめながら、先生は低く消えそうな声で言った。 「永らく、好きだと思っていたよ。でも、ある日突然、その気持ちが思い出せなくなる日が来る。」 「……なんで、」 「なんでだと思う、」  赤信号の手前で車は止まった。対向車はなく、道はただ、先生の車のヘッドライトだけで煌々と照らされていた。  先生の言葉の真意がわからなくて、彼の方を向いた。  先生もまたこちらを向いていた。  その腕が、私の背へ回される。  そのまま抱き寄せられ、唇が重なる。私は反射的に目を閉じた。
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