二.

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 家にはまだ灯りがついていた。  車から降り、自転車を下ろしていたところで、父が姿を表した。父は岩みたいな顔で眉間にシワを寄せ、いつものように私を萎縮させる顰め面をしていた。 「真木、お前今何時だと思ってるんだ、こんな夜更けに……」 「別に、ちょっと十時超えたぐらい、いいじゃん。」 「またそういう口を、」  その続きを言う前に、父は言葉を止めた。  車から出てきたイスカ先生を、父は驚いたような、そして侵入者を拒むような表情で見ていた。  その表情は、どうみても昔の同級生に向けるような顔ではなかった。 「……イスカ、送ってきたのか、」 「真木くんが近くを走っていたから、乗せてあげたんだよ。」 「そうか、ありがとう。」  父の顔は笑ってはいない。〈ありがとう〉などとは微塵も思っていないような言い方だ。  先生もまた、なにか哀れなものを見るように目を細めて父を見た。  二人は試合前の格闘家みたいに、お互いを睨み合っていた。じっと、じっと。 「……じゃあ、おやすみ、」  父がなにか言いかけるのを(かわ)すようにして先生は身を翻し、車に戻った。赤いテールランプがぱっとあたりを照らし、車はすぐに山道の奥の闇へ吸い込まれていった。  玄関に戻ると、靴を脱ぐ直前に父が振り返った。 「真木。」  説教が始まると思って身構えた。が、 「お前、何もされなかったか、」 「え?」  父の言葉は私の予想の横を通り抜けていく。 「あいつから……イスカから、何もされなかったか。」 「何もって、なに、」  父の両手が私の肩を掴む。強い力だった。若い頃父の喧嘩自慢を聞かされていたので、私は反射的に身体をこわばらせた。 「知らないのか、あいつがどんなやつなのか。男に手を出すんだぞ。なあ、身体を触られたりだとか、変なことは何もされなかったか。」  肩を掴む手で私を揺する。
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