一.

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 相変わらず変わったやつだ。明らかにツッパリを意識した俺はともかく、イスカは品行方正が足をつけて歩いているみたいな格好をしていた。それが、真昼に授業をさぼって煙草を吸っている。  最初に煙草をくれといったのはイスカの方だった。  入学式の日に初めて会い、  ひと目見て、こいつは淋しいやつだと思った。  俺はそういう匂いを嗅ぎとるのが昔からうまかった。  実際、イスカには友人らしい友人もおらず、また親らしい親もいなかった。聞けば、彼の祖母が働きながらイスカの面倒を見てくれているようだった。  そういう奴らは俺の周りにごまんといたし、俺自身似たような境遇だった。たいていは俺のように、よそで生まれて家の事情でここに越してきたような奴らだ。  逆に言えば、新井指の生え抜きたちはあまりにも純朴で従順すぎる気がした。  こんな田舎ではツッパリが流行らないのは仕方ないかもしれないが、それにしてはまるでここの人間だけ違う国にいるみたいに、みんな妙にお行儀がよかった。示し合わせてを続けているようで、気味悪くすら感じた。  そういう空気の中で、特にイスカは異質だった。俺たちのような転入組とも、地元の人間とも相容れず、ふわふわとしていた。  入学式の日だって、ただ一人、間違えて学校に彷徨い込んでしまった部外者のような気配で、校舎の影に座っていたのは今でも覚えている。  最初はみんなで脅かして、金でも巻き上げてやろうかと思った。だが、何を言っても、また蹴飛ばしてもなんの反応もなく、その日はもう無視して何処かへ行くほかなかった。次の日もまた同じ場所で座っていたので、俺達もイスカを無視してそこでたむろして授業をサボるようになる。次第に彼が横にいても何ら違和感がなくなっていき、時折話しかけていく中で、ある日〈煙草をくれ〉と言ってきたのだ。  かといって、イスカが俺たちがつるんで出かけることは殆どなかった。一応俺とイスカは同じバレー部だったが、俺のほうは全く部活に出なかったし、たまに気まぐれで仲間内の音楽談義に加えてやると、好きな音楽は〈ジェネシス〉と返すのでわけがわからなかった。その時の俺たちのメジャーは横浜銀蝿だった。
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