夏の終わり

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 あれだけ煩くて暑苦しさを感じていた蝉の鳴き声が聴こえなくなって、ふと感じる寂しさは何なんだろう?  まだまだ暑い日は続いているのに、蝉の鳴き声がなくなっただけで暑さが和らいだように感じるのは何故だろう?  もうすぐ夏休みが終わる――。  そんな時に出会ったのは、海の中に向かって歩いていく一つの影だった。 ――ちょっと待てって――  心の中で待ったを掛けながら思いきり走って行き、膝くらいまで浸かっていたその人の腕を掴み、砂浜へ引き戻そうとするのに、反対にその手を払おうと腕を引かれて、二人してその場に尻餅をつく。  一瞬何が起こったかわからずに目を見張っていると、ふと目の前にいた彼と目が合い、どちらからともなく笑っていた。 「何で海の中へ?」 「学校に行きたくないから――」 「どうして行きたくないの?」 「前の学校で、虐められてたんだ。誰も助けてくれなかったし、見て見ぬふりされてた。どれだけ酷いことされても、みんな僕から視線を逸らして何もないように過ごしてるんだ」 「助けてって言わなかったの?」 「初めは抵抗もした。辞めてくれ、助けてくれって叫んだ。でも、誰も僕の声なんて聞いてくれない。いつしか、抵抗することにさえ疲れてしまった……」  聞くところによると、彼は通っていた学校で酷いいじめに合って不登校になってしまい、母親の実家であったこの街へと引っ越してきたけれど、深く傷ついた心は引っ越しただけではどうにもならず、学校が始まることへの不安からこの世から消えてしまおうと思ったらしい。 「君、名前は?」 「澤部幸佑。君は?」 「僕は、和田康友。高校二年の水泳部」 「高二なんだね。僕と一緒だ」 「へえ、どこの高校へ行くのか決まってるの?」 「浅木浜高等学校だったかな……」 「えっ、僕と一緒だ。だったら、新学期から一緒に登校できるよ」 「そうだったんだ……」  同じ歳で同じ学校に通うことになるとわかり、転校生だということを誰よりも早く知れた嬉しさから、かなりテンションが上がっていた。 「じゃあさ、始業式まで不安にならないように、今日から毎日一緒に過ごすってどうかな?」 「毎日……?」 「そう。そうすれば、学校に行くの怖くないかなって」 「そっか……。怖くなければ良かったんだ……」    こうして僕たちは、その日から夏休み最後の日まで不安にならないように一緒に過ごすことを約束した。
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