涙痕

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「……あれ、南津子じゃん」 涼さんとしばらく話していたうちのひとりの男が、未だに待ちぼうけしているわたしに声をかけてくる。彼……愛称ター坊は、中学時代は一度も同じクラスにならず関わりもない、ご縁がない間柄でまったく話さなかったが、高校時代にはその逆で親しくしてもらっていた。集合写真を撮った中3のときのクラスメイトでさえ、わたしには声をかけてこなかったから、まさかだれかとしゃべるとは思っておらず、予想外の出来事にかなり動揺してしまう。 「久しぶりじゃん。高校卒業して以来?」 「う、うん。そ、そうだね。元気だった?」 「まぁ、ぼちぼち? ていうかさ、式終わってから見かけるとか、もしかしておれと顔合わせないで帰ろうとしてた?」 「正直なところ……」 「うわ、ひど。まぁたしかに、南津子ってがっつり化粧してると全然雰囲気違うもんな。髪も金髪だし、会場内で行き合ってたとしても気づかなかったおれも悪いわ」 そんなことないよと返しながらも、心の中ではじゃあ最後まで気づかなければよかったのに、と思ってしまった。 「あ、そうだ。南津子って、涼さんのこと知ってる? あいつの兄さんなんだけど」 「ん? おれ?」 わたしたちの会話が聞こえたのか、ほかのひとと談笑していた涼さんは、こちらに顔を向けた。 「初めまして。南津子ちゃん、ていうの? きっとたぶん弟がお世話になってるんだよね。おれとも仲良くしてね」 「はい。よ、よろしく、お願いします……」 まさか、あの時この目の前ひとの涙を見てから約7年たった今、こうして話す日が来るなんて思ってもみなかった。 「せっかく再会できたんだし写真撮ろうぜ」 そう言って、わたしがいいよと許可する暇もなく写真を撮ることになってしまった。 「涼さんもよかったらいっしょに入ってください」 「え、おれめちゃくちゃ普段着だけどいいの?」 「全然いいです。な?」 「え……」 なぜか成り行きでそんなことになってしまい、わたしは男ふたりに挟まれてスリーショットを撮っている。 「あとで送るな」 「う、うん……」 「おれにも送って」 「了解です」 「サンキュー。それにしても、あいつ、どんだけ駄弁ってるんだ? いつまでおれを待たせれば気が済むんだっつーの」 「部活仲間はもうみんな帰ったみたいですけどね。たぶん、あの辺にまだ残ってる女子がいるからちょっかいかけてるんだと」 「はぁ。すぐ来ないなら一旦帰るか……」 「あ、涼さん。今夜のおれらのクラスの飲み会、ぜひ参加してくださいよ」 「いやいや、何言ってんだよ。新成人の飲み会におれが参加したらどう考えても空気読めないやつだろ。遠慮しておく」 結果としてこのグループの会話に混ざることになってしまったわたし。タイミングを逃してしまい、この場を去るにもなかなか去れない状況になってしまった。どうしようかとそわそわしていると、それに気がついたらしい彼が、わたしに声をかける。
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