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「あんたが遼くんと一緒にいるところを見たっていう子がいたんだけど。どういうこと? なんであんたみたいなちゃらんぽらんと遼くんが?」
翌日、少女漫画などでよく見かける「呼び出し」というものをされ、昼休みに体育館裏まで連れられてしまった。こういったことをされるのに腹は立ったものの、昼休みには彼と顔を合わさなければならなかったであろうという状況に比べれば気楽なものだった。
「気のせいじゃない? あの優等生と、わたしに関わりがあるように見えるなんて、おめでたいひとたちだね」
「なっ。あるように見えないけど、目撃したっていう情報が入ってきたのよ! だからこうして本人に訊ねているんじゃない」
「だから、わたしは気のせいじゃないのって、本人がそう言ってるんだから気にすることないでしょ。もう要件は済んだんだし、どいてくれる?」
女子たちに囲まれるようにして問いただされていたわたしは、彼女らを押し切ってその輪から抜けだそうとしたが、思ったより強い力で腹部を蹴られ、それも叶わなくなってしまった。
「そういうわけにもいかないのよ。たとえそれが嘘であっても、あの子が悲しんじゃったからねえ。気が済むまで殴らせてもらえるかしら」
膝をついて腹の痛みに耐えていたわたしの目の前にしゃがみこんだ女子が、後ろの方で立っている女子を親指で指しながらそう言った。その人物は、以前わたしが見た、彼と抱擁し合っている子だったのだ。
「え、ちょっ……ふごっ」
そこにいた女子たちは、普段の何かの恨みを晴らすかのようにしてあたしを殴ってくる。反撃しようと思えばできたが、彼の彼女だということを考えたら、なんだか申し訳なくて、罪悪感からなのか、されるがままに殴られ続けた。
「……こ、これに懲りたら、もう二度と誤解を生むような行動、取らないでよね」
素直に殴られていたからなのか、あっけなく行ってしまった。わたしはその場に倒れ、起き上がる気力もなく、背中を丸める。痛みはさほど感じないが、それなりに強く殴られてしまっていたので、きっと痣ができてしまうことだろう。
それからしばらく同じ状態でいると、誰かの足音が聞こえてくる。その音はわたしの顔の前で立ち止まった。
「なに、してんの?」
上から降ってくる声の主は、遼だった。
「どうして、ここに……」
「菜都子を探して、いろんなところ歩き回ってたら見つけた。その傷、どうしたんだよ? 何があった?」
「遼には関係ない。ちょっと転んだだけ。そんなことより、わたしを探して時間使わせちゃったし、ここでお昼にしよっか。あ、でも手ぶらだった。うっかりしちゃった。ちょっと取ってこよ……んっ」
重たい体を起こして立ち上がり、そうやって最後まで言い切る前に、唇を遼のそれで塞がれる。そして、彼の腕の中に納められた。
「言いたくないなら仕方ないけど、関係ないなんて、全部を否定するような言い方しないでくれ」
そうやって言う遼の声は、なんだか震えていた。彼の胸に顔を預け、頷いて見せる。彼は満足してくれたようで、体育館へ入るための段差になっている部分に座りこんだ。わたしがその隣に腰を下ろそうとすると、彼の脚の間に座るよう促される。ためらいがちに彼に背を向け脚の間に座ると、彼はぼそっと呟いた。
「昼飯なら、おれが食べさせてやるから問題ないよ」
遼は弁当箱を広げ、おかずを口に入れると、食べ物を口内に含んだままわたしと唇を重ねてくる。それは前に食べさせられたトマトとはわけがちがった。
ひとつひとつ、おかずを食べさせられるたびに、わたしはくらくらと眩暈がするような感覚に陥っていく。最後の一口を食べさせられた後、唇が離れることはなく、そのままキスを続けた。制服に伸びてくる彼の手を拒むことなく受け入れ、ただの接吻から途中で情事へと変わっていった。
「午後の授業、サボっちゃってよかったの? 優等生くん」
情事後、彼に包まれながら、わたしは訊ねる。
「別にいいよ、今日くらい。それに、淫らな菜都子を堪能できたから」
「りょ、遼の変態!」
「そんなの今さらでしょ。真面目な男子ほど頭の中は不健全ってね」
開き直る彼に呆れながらも、わたしは笑った。それにつられて彼も笑う。そんな光景を、誰かが見ているとも知らずに。
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