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「誰……」
「っ、よぉ……」
「遼……?」
どうしてわたしの家の住所を知っているのか、なぜ今ここに来ているのか、いかにしてこのような状況になってしまったのか……訊きたいことはたくさんあったけれど、今の彼の雰囲気からして問いただせるものではなさそうだ。
「……そう。そうだよ。おれはその声が聞きたかったんだ」
「いったいどういう……」
「どうもこうも、理由なんてないだろう。おれらの関係なんだから」
いつもの彼とはまるで違っている。別人のようだった。けれど彼の発した「関係」という言葉に、わたしは今まで黙っていたことを口にする。
「……わたしは、素直じゃないし、従順でもないよ」
わたしの言ったことに対して頭に疑問符を浮かべている様子の彼など無視し、そのまま話しを続ける。
「それに、遼、彼女いるじゃん。見たんだよね。だからわたしも彼氏作ろうと思って。それに、この前遼に近づくなって、彼女本人からも忠告されちゃったし……んやぁっ」
わたしが話し終わる前に、彼が首筋を舐めてきて、思わず声が漏れてしまう。拒絶の言葉を投げつけても、彼の行為が止まることはなかった。それがだんだんと上にいき、耳をしゃぶられる。
「んっ、りょ……やだ……」
「余計なこと考えてるんじゃねーよ。何も喋るな。ただ感じていればいい」
彼はそう言って、耳元から離れたと思ったら、今度は唇を重ねてくる。舌を絡め取られると、抵抗することすら忘れ彼のキスに酔いしれてしまっていた。
乱暴な愛撫を受けているはずなのに、手荒さは感じられない。彼の言った通りにされるがままに感じていると、いつの間にか唇が離れ、見つめられていることに気づく。
「……遼?」
「近づくなとか、そんな変なことを言うのはあいつしかいない……あいつの言葉は気にしなくていい。それに、おれは……」
言葉を区切られ、次に発せられるのはなんだろうと待ち構えていると、下半身に彼のものが突き刺さる感覚を覚え、思考が遮られた。だが、その後に発せられた言葉によってわたしは通常を取り戻す。
「おれは、菜都子の恋人、だろ」
「すき」だとか、「愛してる」だとか、そんな愛の囁きよりも、今のわたしにとって、どんなにうれしい言葉だっただろう。彼に抱かれ、はしたなく喘ぐ自分が、今まで生きてきた中で、一番自分らしく、生の実感が湧いた。
*
「……逆恨み?」
玄関での情事後、乱れた服装を整えてから、わたしは遼を家の中へと入れた。とてもじゃないが、学校に行く気にはなれなかった。
「そう。前に告白されて、断ったんだ。そしたら今だけ抱きしめて、とか言って勝手に抱きついてくるし」
「あ……」
彼の言葉を聞いて、わたしが見たあの光景は、その時のものだったのか、と確信する。
「さっき言ってたことだけど」
含みを持たせながら彼が口を切る。
「おれだって、年齢的にアウトじゃん。年上じゃないんだから」
「……え?」
「菜都子の相手のイメージ」
それは、以前にクラスメイトが言っていた、わたしの彼氏のイメージに対してのことなのだろうか。真剣な眼差しでこちらを見てくれている彼には悪いけれど、思わず笑ってしまった。
「な、なんで笑うんだよ」
「だって、それを聞いてた時、遼、笑ってたじゃない。気にしていたのかと思ったら、なんだかかわいいなって、そう思って……」
「かわいいは褒め言葉じゃないから」
そう言って、顔を赤くさせる彼をさらに「かわいい」と思ってしまった。
「……そういえば、遼、わたしに彼氏と別れろ、って強要してきたけど、わたしから切り出す前に彼の方から別れようって言ってきたの。何か知ってる?」
「だって、脅したの、おれだし。菜都子があいつと帰るはずだった日にね」
なるほど、だから教室にいなかったのか、という納得感と、彼に脅されたら怖いだろうなという恐怖感でいっぱいになる。
「……それより、ごめんな」
「え?」
何のことかと首を傾げると、彼がわたしの体に手を伸ばしてくる。
「おれのせいで、菜都子の綺麗な体に、傷つけて」
優しく触れながら、悲しそうな瞳をわたしに向けてきた。
「べ、別にいいよ。だって、あの子たちの言う通りちゃらんぽらんなのは本当のことだし。今だって、こうして学校をサボらせて、遼に悪影響を与えているのも事実。たいしたことじゃな……」
わたしの言うことを最後まで聞かずに、遼はわたしを引き寄せて抱きしめた。
そして、考えてもみなかった言葉を耳にする。
「そんなこと言うなよ。菜都子はは、おれの宝物なんだから」
「え、遼? 今なんて」
「いつだったか、放課後に教室でひとり残っていた菜都子を見かけたんだよ。窓際に座って、髪が風になびいていて、なんて綺麗なんだろうって。いつまでも、見つめていたいと思った。それから、不本意だけどああいう関係にまでこぎつけることができて、うれしかったよ。だけど、改めてキスフレって関係を突きつけられたら惨めになって、だからいきなり襲ったりなんかして……」
そんなふうに思っていたのか。
わたしも、彼に対していろいろな気持ちが込み上げてくる。
「わたしだって、前に遼にキスするだけの関係を恋人はいえないって言われた時、本当はショックだったんだからね。だから、わたしのこと離したら、絶対許さないから」
「……あぁ。二度と手を離さないと誓うよ」
単純な関係が、時を経て、情熱的で甘い関係に変わる……
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