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その晩は眠ることなど出来なかった。
「私が誘拐された時、きっと缶助もこんな気持ちだったのかな」
不安で心配でじっとしていることなど
出来ないで事務所の中を歩き回る。
私の動きをいっときも目を逸らさず
見つめている「りん」。
ソファーに座るとりんも隣に来て私の太腿の所に
顎を乗せる。
たまに顔を上げて私を見ている。
りんも缶助がいない事に不安を感じているのかも
知れない、りんの頭をそっと撫でる。
りんは目を細めてシッポをゆっくりと
左右に振る。
「りんちゃんも缶助の事が心配なんだよね
ごめんね、私がしっかりしてないから
いつも缶助やあなたに余計な心配掛けてしまって
明日また、あそこに行ってもう一度徹底的に
調べ直そうね、手伝ってねりんちゃん」
りんのシッポの振りが早くなった。
そんな事をしているうちに、
ソファーの上でりんと一緒にうたた寝してしまった、ふと目が覚め時計をみると朝の4:30だった。
外は薄明るくなって来ている。
コーヒーを自分で淹れ、飲む。
「夏凛さん、朝ごはん何にします?」
缶助の声が聞こえて来たような気がした。
私の視界が急に歪んで見えて来た。
頬を伝う一筋の雫.........。
「涙?泣いているの?私!」
泣いている暇など無い!と自分に言い聞かせるのだが、後から後から涙が湧いてくる。
りんも心配そうな表情で私を見つめている。
思わずりんの首にしがみつく、
その瞬間、声を出して泣いてしまった。
りんも「ク〜ン」と一声。
私の膝上に前足を乗せ顔を近づけ涙をひと舐め
「元気出して!缶ちゃんを絶対に探し出そうね」
りんがそう言っているような気がした。
ひと泣きして、気を取り戻し明るくなった時点で
また、車であの場所に行く。
現地に着くと、畑に人影が見えた。
りんを残し車から降りその人に近づいて
聞いてみた
「おはようございます、すみませんチョット
お聞きしたいのですが............」
畑仕事をしていたのは年配のお婆さんだった、
急に話しかけられて驚いていた。
「何だね、こんな朝早く」
「あの〜、昨日この辺で自転車に乗って
来た男性を見かけませんでしたか?」
と聞いてみた。
「自転車ってあれか?」
小屋の横に止めてある自転車を指差した。
「そうです、その男性はある事を調べていて
教えられた住所がここだったんです、
そして、自転車を残したまま行方がわからなくなってしまいまして」
「そっかい、実は昨日な男達2人が揉めているのを見ちまってな、自転車に乗って来た男を
車に乗せてどっかに行っちまったんだよ、
喧嘩しているようだったから、あたしも怖くてな
見ていることしかできなかったんだ、
しばらく揉めていたんだけど自転車の
男性が急に倒れてそんで車に乗せられて
行っちまったんだよ」
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