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蒼い三日月の夜
時は遡り。
100年に一度と云われる、空に蒼い三日月が輝く夜。
エイク達討伐隊一行8名は古代竜ファーニルの洞穴入り口まで来ていた。
夕方に到着したのだが、ファーニルの異様な鳴き声が続いていて、突入のタイミングを待っていたら夜になった。
「静かになったな。イル。皆も。準備は良いか?」
頃合いを見計らいエイクは立ち上がって、討伐隊メンバーに声をかける。
「万端整っている。エイクこそ、怖くて震えてないか?」
黒いフード付きの外套を寒そうに身体にひきよせる相棒の魔導師イルが答えた。
「ほざけ。誰がだ」
「初めてゴブリン退治した時、手足が外れるんじゃないかと心配するくらいガクガクと震えていたのは誰だったかしら」
「え?」
イルが大袈裟に手足をブルブル震わせる真似をすると、すぐ近くで話を聞いていた他の仲間達の注目を浴びた。
「イル……黙れ」
「オーグルスレイヤーのエイクさんでもそんな時があったんですね」
若い隊員の一人が驚いたように、でも少し嬉しそうな反応をする。
「子供の頃の話だぞ。勘弁してくれ」
「オーグルの時だってね、私の凍結魔法がなかったら今頃どうなっていたか……」
「イル、お前、俺を辱めて楽しいか?」
「楽しい」
そのやり取りを聞いて、討伐隊の仲間達がクスクスと笑う。少しは皆の緊張が解けたようだ。
その様子を見てエイクは頷いた。
「よし、行こう。今日は蒼い月の女神がついている。この任務、必ず成功させよう。帰ったら俺達、英雄で大金持ちだぜ」
エイクの言葉に、全員笑って気合いを入れた。
「……一言余計なのよ」
魔導師イルが苦笑いする。
と、そこへ、どうやってここまで来たのか分からない人物が一人、岩場の影から現れた。
「君達、ファーニルを退治しに行くんだろう?」
突然の来訪者に、全員一斉に武器を取る。
「あっ!待って待って。怪しい者じゃないよ。そんな警戒しないで」
現れたその男は手を挙げながら近付いてくる。
「怪しい人物が自分で『怪しい者です』とは言わないでしょうね」
イルが冷ややかに言って、魔力を集中させた杖を男へ向けた。
「あはは。確かに。君、面白いね」
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