帰らぬ討伐隊

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帰らぬ討伐隊

「かれこれひと月ほど古代竜の鳴き声、しないな」 「この間行った討伐隊、もしかして本当に成功したのか?」 「でもこれまでどれだけの手練れが失敗したと思って?」 「けれどもうひと月だよ?もう、おびえて暮らさなくていいのかな」  ここ、ソニア王国は、エディア大陸の東側に位置する。  自然環境としては温暖で程よく降雨もあり、農作物の生産に適した地域。  大陸中で最ものどかで争いも少なく、住みやすい地域だと言われていた。  この国と北の隣国ディーク公国の境に、美しい山容の、大陸で一番標高が高い山・ファーヴニア山が聳える。  その麓の街での最近の話題はもっぱら、山の主である古代竜が討伐されたかどうか。  創世期から生きていると云われる古代竜。  竜はかつて世界の覇者だった。  しかし長い長い年月を経て数を減らし、現在確認される個体は6匹。  古代竜達はエディア大陸各地に散らばって群れは作らず、人里離れた険しい場所を棲家に、それぞれが1匹で暮らしている。  人の歴史上、竜が登場する事はごく稀で、千年以上前の大戦時に、竜を手懐け活躍した英雄の伝説が残る程度。その伝記によると、竜の鱗は非常に硬く弓も魔法もはね返す。口から火を吹き辺りを焼け野原にしたという。  様々な権力が、絶大な力を持つ古代竜を手に入れようとした。  しかし竜を手懐けられたのは後にも先にもその伝説の英雄ただ一人。幾多の猛者が試みて命を落とし、そのうちに竜を手懐けようとする者はいなくなった。今となってはその英雄が実在したかどうかすら怪しく、ただのおとぎ話だというのが通説だ。  本来古代竜は、人に懐きもしないが危害も加えない。時折大空を飛ぶ姿を見せることはあれど、人間と関わりあうことはほとんどなかった。  しかし数年前から突如、1匹の古代竜が暴れて人を襲うようになる。  東の果て。  山の竜・ファーニルだ。  最初の被害者は山へキノコ狩りへ出掛けていた村人。その次は山を越えて隣国へ抜けようとした商隊。  棲み家であるファーヴニア山の山肌でたびたび火事を起こし、やがて人里まで飛来して畑や人家を焼いた。麓の村人たちは近くの街へ避難。街も2度の襲撃で半壊状態に。人を攻撃しない日も、毎日不気味な鳴き声をあげるようになった。    被害の報告を聞き、王国は討伐隊を結成。  これまでに王国正規軍で構成した討伐隊が3回。その後、大陸全体にネットワークを張る魔物ハンター協会や魔導学院、女神聖教へ依頼を広げて討伐を試みるも、誰一人として帰ってこなかった。
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