蒼い月の女神

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蒼い月の女神

 最後の討伐隊はわずか10名足らずのごく少数でこの町を旅立って行った。  討伐隊の一員で一番腕が立ちそうな赤毛の青年は、名をエイクと言った。  常人がとても片手では持てないような大剣を遣い、大陸中の魔物退治を請け負って成功させてきたという実力の持ち主。最近だと南のキーン砂漠で大暴れしていたサンドオーグルを討ち取り「オーグルスレイヤー」とも呼ばれていた。 「エイクの剣、すごく大きいね!これでオーグルをやっつけたの?」  討伐へ出かける前日、宿の外で大剣の手入れをしていたエイクに、栗色の髪の少年が近付いて話しかけた。  この街に住むロイという名の少年で年齢は9つ。  昨年、古代竜ファーニルの襲撃時に母親を亡くしている。 「ロイ、持ってみるか?」  エイクが大剣の柄を少年に持たせる。  たちまち剣が勢いよく重力に引っ張られ、土の地面に剣先が刺さった。 「アッハッハ!ロイはひ弱だなぁ」  アワアワしているロイを見て大笑いするエイク。 「こんなに重い剣、本当に使えるの?」  笑われたことにムッとしながら、ロイはエイクに質問する。 「もちろんさ。この剣でゴブリンもトロルも、サンドオーグルもやっつけたんだぜ。こいつが俺の相棒だ」  エイクが片手で大剣を地面から抜いて、軽々と構えて見せた。  無駄のない筋骨隆々の引き締まった体の上には、28歳にしては若く見える整った顔立ちがアンバランスに思える。  ロイは、今度は目をキラキラさせてエイクを見つめた。 「俺もエイクみたいに剣士になりたい!」  やり取りを近くで見守っていたロイの父親・アレイスがズッコケた。 「おい、息子よ。父ちゃんみたいに、じゃないのか?」 「父ちゃんは確かに弓の名人だし、王国の正規軍だけど、やっぱり剣で戦う方がカッコいい!」 「父ちゃん寂しいよ……」  アレイスが栗色の髪と同じ整えた髭を撫でながらしょぼくれた声をあげるとエイクとロイが笑う。 「まあ、でも、あれだ。息子ももう9歳だ。戻ってきたら、こいつに剣を教えてやってくれないか?」  無事、帰って来い。  そのメッセージを受け取って、エイクは頷く。 「俺の稽古は厳しいぞ?ついてこられるかな?」  エイクがニヤッと横目でロイを見ると、ロイの目が輝いた。 「エイクが教えてくれるの!?うん!俺絶対大丈夫!弱音は吐かないよ!」  彼は、ロイの頭をくしゃくしゃに撫でながら爽やかに歯を見せて笑った。  するとロイが改まって真面目な顔で、自分の胸に手のひらを当てた。 「エイク。あなたに蒼い月の女神の加護がありますように」  エディア大陸では、女神信仰が強い。  光輝く太陽の女神。  百年に一度現れる蒼い月の女神。  命を抱きしめ育む大地の女神。    戦地へ赴く者は、武運を授けると云われる蒼い月の女神を信仰する者が多い。 「そういえば、蒼い月が出るのはもうすぐだったな。きっと女神も味方してくれるよ、エイク」  アレイスがそう言うと、エイクは精悍な顔つきで頷いた。 「ありがとう!必ず戻ってくるよ。ロイ、お前の母ちゃんの仇、俺が取ってきてやるから待ってろ」  力強く宣言し、仲間達と共に出発したのだった。
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