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ファーヴニア山
古代竜ファーニルの鳴き声がしなくなってからひと月。
もし討伐に成功したとすれば、エイク達が麓の町まで帰ってきてもおかしくない日数がとうに経っている。
毎日聞こえていたファーニルの不気味な鳴き声がしなくなり、それからは飛ぶ姿も目撃されていない。討伐に成功したか、そうでなくてもかなり弱らせた可能性は高い。
戻ってこないということは、彼らに何かあって動けないのか、はたまた相打ちで全滅してしまったのだろうか……。
皆がそう思い始めた頃、討伐隊の安否と古代竜ファーニルの状況確認の為、正規軍の中から数名が選ばれ、調査隊として派遣されることになった。
「父ちゃん、もしかして万が一竜がまだ生きてたら、全速力で逃げてきてよ」
出発前、息子のロイがアレイスの腰にしがみついて来て言った。
「おいおい。父ちゃんはこれでも王国の正規軍だぞ。父ちゃんの息子がそんな弱気な事言わないでくれよ」
「だけど!オーグルスレイヤーのエイクですら帰ってきてないんだよ?父ちゃん、オーグルやっつけられないでしょ?」
「そりゃあエイクに比べたら剣の腕は……いまいちだけど、弓は誰にも負けないんだからな。人には役割ってもんがあるんだ。それにほら、もう鳴き声はしていないし、きっとエイク達が討伐に成功しているはずだ。彼らは怪我をして動けないのかもしれないから、助けに行かないと」
そう言い聞かせてロイをなだめ、出発した。
安否・状況確認。
建前は。
ソニア国王が密かに指示を出したのは、古代竜が守っていた金銀財宝と、あるモノの確保。
それらを回収する任務を、アレイス達調査隊は任された。
◇
大陸一の標高を誇るファーヴニア山。
山頂は一年中雪が溶けず遠くから眺めれば美しい山容の独立峰だが、いざ登るとなると急峻でその道は険しい。隣国への街道は歩きやすいように山を迂回している。街道を使わずに山を越えて越境するには、ほとんど獣道の、人一人がやっと通れるような道を行くしかない。途中からは崖に貼り付いて這い上がらなければならない箇所もいくつもある。
そして何より、山の古代竜ファーニルの領域である。
そんな険しい道のりのため、これまでに行った討伐隊達も大軍で向かわせることができなかったのだ。
今回の調査隊も少数精鋭。剣や斧の遣い手の他、魔法を使う魔導師や聖導師、弓の名手であるロイの父親アレイスも含めて10名で編成された。
ファーヴニア山は尖った牙のような形で、山頂はほとんど雲に隠れている。時折すっかり晴れ渡った日に遠くから眺める分には美しく神々しくも感じる。
実際登るには、まずは広い裾野の樹海を抜け、その先の岩だらけの滑りやすい地帯を超えて行かなければならない。
途中出くわす魔物と戦いながら進む訳で、麓の街からも、悠に2週間はかかる。
「こんな道、ファーニルにやられた商隊の奴ら、よく進もうと思ったな」
歩きながら、誰かが呟く。
「どうせ街道を堂々と進めないやましいことでもあったのだろうさ。俺達の目的地が山頂じゃないだけまだマシだな」
答えながら斧使いの隊員が、飛び出た邪魔な枝を切りながら道を開けていく。
「竜の巣より山頂の方が絶対マシですよ……」
体力的にあまり自信が無さそうな聖導師がポツリとこぼした。
山の中腹。
大きな洞穴。
そこが山の古代竜ファーニルの棲み家だ。
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