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ファーニルの巣
万年雪の山頂まで行かなくとも、気温は麓よりもかなり低い。日の当たらない洞穴の中は尚更にひんやりとしている。
「明かりを」
調査隊長が命令すると、同行した魔導士が前に出た。短い詠唱で杖の先に光を集め、それを前方へ飛ばす。松明程の明かりが足元を照らして先導し始めた。
「もうちょっと明るくできないのか?魔力を増幅する水晶球を貸与されているだろう?」
少々心許ない明かりに隊長が文句をつけた。
「お前達の荷になる松明を減らすためにな」
魔導師が嫌味をたっぷり込めて返す。
「途中で魔法しか効かない魔物が出るかもしれんし、洞穴がどれほどの規模か分からんから、出来るだけ魔力を温存したい。帰りは真っ暗でも良いなら昼のように明るくできるが……」
「いや、必要最低限で良い」
ちょっとした家ほどの大きさの古代竜が出入りしているだけあって、洞穴は高さも横幅も大きい。
奥へ奥へ進んで行くと所々に人の骸。
白骨化したものから、比較的新しいのもある。王国正規軍の甲冑をつけたのも、何体か確認できた。
進む先は行けども暗闇で、人が生きている気配が感じられない。
自分達の足音だけを聞きながら、皆一様に黙って慎重に進む。
竜の棲み家だからか、先の討伐隊が一掃したためか、幸い他の魔物に遭遇することはなかった。
入り口から3時間かけて、ようやく最奥部と思われる場所まで辿り着く。
そこでは日の当たらない真っ暗なはずの洞穴の中、ほのかな明かりが見えた。
「あれは、魔法の光だ。おそらくかなり古い時代の魔法だろう。自然の中の魔力を取り込んで、半永久的に光り続ける」
魔導師が説明してくれた。
上からスポットライトのように照らされた場所には、古代竜がそこで寝起きしていたと思われる窪み。
その奥には金銀財宝が、山と積み上げられている。
明かりの端に、古代竜が横倒しになっているのが見えた。
動く気配が無いが、慎重に近付いて確認する。
「間違いなく、死んでいる」
隊長の声に、一同張り詰めた緊張から解放された。
そして、古代竜の骸に近付いて直に手で触れてみる。
ここにいる誰もが皆、こんなに近くで竜を見るのは初めてだった。
「竜の鱗はこんな滑らかな質感なのか。竜の牙に毒があるというが、口を開けさせたいな……」
魔導師殿の知的好奇心が満たされるにはしばらく時間がかかりそうだ。
アレイスはその周囲を見回す。
すると、先日旅立っていった討伐隊と思われる亡骸があちこちに散らばっていた。
調査隊は、土に還ろうとしている討伐隊の亡骸の前で跪き、胸に手を当てて祈りを捧げた。
願わくば勇気あるこの者たちの魂が、無事“安らかの野”へ向かえるようにと。
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