古代竜の財宝

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古代竜の財宝

 それから調査隊員達は、山と積み上げられた金銀財宝をザッと品定めしようとした。黄金と宝石で豪華に造られたネックレスや腕輪、冠……。  カラスが光る物を集めるように、竜は黄金を集める習性でもあるのだろうか。 「待て、触るな!」  アレイスが財宝の一つを手に取ろうとした時、魔導師から強く制止された。 「いつの時代に造られたものか分からないが、こういった財宝の類いには呪いがかけられている物もよくある」 「呪いだって?」  尋ねると、魔導師が険しい顔を崩さずに続ける。 「そうだ。これらの財宝は、長い時間をかけて人から竜に捧げられてきた物だ。今は行われていないが、昔の人々……千年前の大戦の記憶が新しい頃には、竜を神のように恐れ敬い、様々な捧げ物をしていた時代があったと文献に残っている」 「それは“宝物を差し上げますからおとなしくして危害を加えないでください”ということか?」  アレイスの質問に魔導師が頷く。文献によると、金銀財宝の他、食肉家畜や若い女性の生贄を捧げていたこともあったそうだ。 「もしかして、そういう捧げ物をしないからファーニルが怒って人を襲ったのか?」 「どうだろう。そんな習慣があったのは何百年も前の文献に残っている程度だから、今更それが原因だとも思えないが……。しかしこうして実際に、財宝の山を律儀に寝床に集めて守っていたところを見ると、興味がなかったわけでもないのかも知れないな」  そうすべきだったのかどうかは今となっては分からない。  現在生存が確認されている古代竜の中で人を襲う危険な竜は、ここに転がっているファーニルだけだった。  古代竜の棲み家がある他の地域では、同じような被害の報告は上がっていないらしい。 「とにかく、古代の呪いは色々ある。手に持つと100人の血を吸うまで殺戮を続ける剣とか、付けた途端に踊り出すネックレスとか」 「踊りとは、可愛らしい呪いだな」 「寝ることも許されず死ぬまで踊り続けるとしてもか?」  魔導師の言葉にゾッとした。 「しっかり調べが終わるまで安易に触れないほうが賢明だ」  調査隊員達は、王国の正規軍に所属している。皆その事を自身の誇りと思い務めている。  これだけの黄金や財宝を目にするのは初めてでも、それに浮かれて迂闊に手を出す者はここにはいなかった。  魔導師の言葉を聞いて財宝をかき集めるのは後回しにし、調査隊は古代竜の骸の解体に取りかかることにする。    竜の硬い鱗や皮、鉤爪等は、魔力を通しやすく貴重な武器や防具の材料になる。牙には毒もあるらしい。その採取も任務の内だ。  そして、今回の一番の目的。  何よりも国王が所望したのは、竜の心臓。  竜の心臓を食べると全知全能不老不死になるという言い伝えがあった。 「しかし困ったな……」  古代竜の鱗は非常に硬く、普通の刃物ではすぐに刃こぼれしてしまい、解体が思うように進まない。 「魔法でどうにかならないのか?」  隊長が言うと、魔導師が露骨に嫌な顔を見せた。 「やってみるが……魔法が万能だと思うなよ。竜は魔法耐性も強い」  そこで疑問が湧いた。  では、討伐隊はどうやってファーニルにトドメを刺したのだろう?
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