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エイクの剣
「エイク、そのペンダント綺麗だね」
討伐隊出発前の壮行会を兼ねた食事会の時、エイクが首に下げている青い三日月を模ったペンダントを見留めてロイが話しかけた。
たった3日の滞在中、アレイスの息子ロイは随分とエイクに懐いていた。
「へへへ。だろ?これはお守りなんだ」
「誰かに貰った物か?」
アレイスが尋ねると、エイクは食事会場の反対側で、街の女性達と会話を楽しんでいる魔導師の女性をチラッと見た。長い黒髪の美しい女性で今回の討伐隊メンバーの一人。
「え?もしかして、あの魔導師と恋仲なのか?」
「まあ、腐れ縁というか何というか……随分と長い付き合いでさ。オーグル退治の時も一緒だったんだ」
「危険な所へ一緒に行くの、心配じゃないの?」
「置いて行くなんて言ったら、多分俺、古代竜より先にアイツに殺される」
そう言ってエイクは豪快に笑った。
◇
アレイスは魔導師に明かりを増やしてもらい、注意深く周囲を観察した。
横倒しになっている古代竜。薄く開いたままの目に生気はなく、確実に絶命している。
寒さであまり進んではいないようだが、腐臭も漂っている。
古代竜の尻尾の先あたりに、女性の魔導師が横たわっているのが確認できた。他の遺体と違って、まっすぐ仰向けで、手を胸の上で重ねた綺麗な形に整えられている。
更に広範囲に明かりを照らすと、エイクがサンドオーグル退治にも使った自慢の大剣が真っ二つに折れて転がっていた。
その先には……
「エイク……」
竜の寝床の最奥。
少し崩れた岩壁に半分埋もれるような格好で足を投げ出して動かなくなっていたのは、討伐隊の一員でオーグルスレイヤーの異名を持つエイクその人だった。
首から上が無く、誰か分からないと思ったが、胸元の青い三日月のペンダントは恋人からのプレゼントだと言っていた物に違いない。
遺体の状況から察するに、相当激しいギリギリの闘いが繰り広げられたのだろう。
彼らは自らの命を賭して、竜の脅威から人々を守ってくれたのだ。
『帰ってきたら剣術を教えてもらうんだ』
ロイの嬉しそうな顔が思い浮かび、一瞬エイクの亡骸から目を逸らして目を閉じた。
それからすぐに気を落ち着けて、もう一度エイクに向き合う。
その手には、大剣とは違う別の剣が握られていた。
刃が異様に青白く光る剣。
魔法に疎い者から見ても、それがある種の特別な魔力を纏う剣だと一目でわかる。
竜の鱗は鋼のように硬く、普通の刃物では埒があかない。
自分の大剣が折れてしまったエイクは、きっとその剣で、ファーニルに致命傷を負わせたのだろう。
同時に相打ちで頭を持っていかれたのか……。
「彼が握っているこの剣なら、竜の鱗も斬り裂けるかもしれない」
隊長がエイクに祈りを捧げた後、「借りるよ」と声をかけてエイクの手から青白く光る剣を取った。
その剣は予想通り、竜の鱗を易々と斬り裂いた。
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