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竜の解体
易々と斬り裂ける剣……とはいえ、ちょっとした家ほどの大きさの竜を解体するにはかなりの時間を要した。
竜の鱗や皮は、丈夫な鎧や盾に。鉤爪や骨は加工して剣やナイフの貴重な材料になるという。牙から採れる液体は持ち帰って研究に使うと言って、魔導士殿が嬉々として瓶に詰めている。
「鱗も骨も、とても軽いな!」
「体が重いと飛べないんじゃないか?」
隊長をはじめ、斧・槍遣い達、力が強い者が解体し、アレイスや魔導師等遠距離・後方支援組が部位ごとに仕分けしていく。
「……これは、持ち帰っても大丈夫なのか?」
一番の目的である竜の心臓は、サイズもかなりのもので、屈強な男が二人がかりでやっと持てる大きさだ。
しかし問題は大きさよりも……。
「腐りかけているな」
解体が進むにつれて、辺りに漂う腐敗臭が強くなっていた。アレイスは先程から吐き気を我慢している。
「こんな物、いきなり王に食べさせて大丈夫でしょうか……?」
聖導師が腕で鼻を覆いながら呟く。
「……食ってみるか?」
斧遣いがとんでもない事を言い出した。
「お前!これは国王のものだぞ!他の正規軍にも秘密裏に指示された極秘任務で、ここにある財宝の類いも何一つ私達の物にはならない!」
「そんなことは分かってるよ隊長。勘違いしないでくれ。聖導師が言う通り、この腐りかけの心臓を国王に差し出して、何かあれば事だぞ」
「そんな事を言って、自分が全知全能不老不死になりたいのではないだろうな?」
「勘違いするなと言ったろ!それは言い伝えであって、本当に食べた事ある者はいないだろう?多少腹を壊す程度で済めばいいが、もし御命に関わるような事があればその時断罪されるのは俺達だ。それなら、先に試しておいた方が良いんじゃないか?」
その言葉に、隊長は腕を組んで黙り込んだ。
「俺達は国王の忠実な僕だ。一番大事なのは、国王を守ること」
隊長は確認するように言って、調査隊を見回した。
「……全員で食うわけにはいかない。何かあった時の回復と帰り道の為に、聖導師と魔導師は食うな」
食うなと言われて、聖導師は明らかにホッとした表情を浮かべたのと反対に、魔導師は残念そうだ。
「誰が試す?」
一瞬の沈黙の後、斧遣いが手を挙げた。
「言い出しっぺだ。俺が試そう。もし俺がおかしな行動に出たら、すぐにその剣で首を飛ばしてくれ」
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