試食

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試食

 丸一日かけて解体作業にかかっていた為、調査隊員たちは皆空腹だ。  腐臭が気になりはするが、だいぶ鼻が慣れてきたこともあり、全員腹ごしらえすることにする。  とはいっても、ごくわずかな干し肉と固く焼いたパンを、皮袋に入れてきた水で流し込むだけ。  輜重担当の兵士が皆に干し肉とパンを配っているその横で、斧遣いが、イノシシ程もある竜の心臓に刃を入れている。  色が緑色やどす黒に変化している箇所は避け、内側の方を少量切り分けてスライスした。 「少し火をくれ」  さすがに生で食べるのは気が引け、集めた小枝に火をつけてスライスした竜の心臓肉を炙る。  するとすぐに、鼻孔をくすぐる香ばしい肉の焼ける匂いが漂ってきた。 「うまそうな匂いはせめてもの救いだな」  肉を炙りながら斧遣いが気丈にそう言ったが、肉を刺したナイフを持つ手が若干震えているのをアレイスは見逃さなかった。  斧遣いは意を決したように、勢いよく肉を口に入れ、2、3度噛んで飲み込んだ。  そして目を見開く。  「うっ……!」  見守っていた調査隊員達に緊張が走る。  各々が自分の武器に手をかけ、聖導師が回復の魔法を、輜重も兼務している薬草師が解毒の準備をしかけた次の瞬間。 「美味い!!」  斧遣いが恍惚とした表情で顔を上げた。 「こっ、こんな美味い肉を食べたのは初めてだ!塩もハーブも足していないのに、程よい油が甘くて香ばしい!」  その場にいた全員が深く息を吐き、斧遣いは隊長にどつかれた。 「痛っ!隊長~、殴ることないだろ」 「どれだけ心配したと思ってる!」 「いやあ、本当に何かあれば容赦なく俺も殺されるんだと分かって安心したよ」 「お前な……俺たちを試すな」 「悪い。試したわけじゃない。毒も呪いもなさそうなことは分かったんだから良しとしてくれ」 「消化してないから、結論はまだ早いんじゃないか?……逆に、全知全能はどうだ?なったか?」 「う~ん……じゃあ何か質問してくれ」 「エディア歴202年に南のクライオ島で起こった大規模な暴動は何が原因だったか分かるか?」  魔導士が質問する。 「ええっと……火山の噴火?」  斧遣いが目を泳がせながら答えると、隊長が呆れた顔で深いため息を吐いて首を横に振った。 「やはりただのおとぎ話だったか」 「あっ!でもこの竜の肉、本当に美味いぞ。皆も食べてみろ。少しの干し肉と乾いたパンだけじゃ足りないだろ?」  その言葉に、一番最初に手を伸ばしたのは魔導士。隊長が制止する間もなく、炙られていた肉を口に放り込んだ。 「ふむ。これは確かに。もっと大味かと思いきや、案外柔らかくて噛むと甘みのある肉汁が口中に広がる」 「どうだ?魔導士殿なら全知全能になれそうか?」  斧遣いがニヤッと笑い冗談交じりに魔導士に聞く。 「…………君と同じで、特に今のところ知識や魔力が増える気配は感じられない。が……」 「が?」 「こんなに美味いものを食べたなら、寿命が延びるというのは分かる気がする」 「そんなにか」  と、食べた二人の様子を見ていた隊長をはじめ、他の者達もゴクリと唾を飲み込んだ。  そして追加で心臓の端をスライスして炙り、皆「美味い、美味い」と食べ始めた。 「肉は腐りかけが一番美味いというしな」  そんな隊長達を横目にアレイスはというと、吐き気をもよおした先ほどの匂いが忘れられず、どうしても口に入れることができない。  結局、肉食を自ら禁じている聖導師とアレイス以外は全員、古代竜の心臓に舌鼓を打ったのだった。
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