夏の終わりの会

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 九月最後の週末。先生はわたしたちに宿題を出した。家に帰ってからも頭の中でなんとなく考えてはいたけど、結局答えなんて出るわけもなく。  夏の終わり。秋のはじまり。そんなこと、どうしてわたしたちに託すのか。わたしは知らず知らずのうちにため息が出ていることに気づく。 「どうしたの菜花?」とお母さん。 「え、ああ、いや別に」 「なんだ、菜花は母さんが作ったハンバーガーが楽しみじゃないのか?」  お父さんはもう子どもみたいにはしゃいでいて、グラスにジュースを注いでいる。それをおぼんに乗せて庭先へと運んでいく。 「そういうわけじゃなくて」 「もう父さんはさ、これが毎年楽しみで楽しみで」 「本当に子どもみたいなんだから」  お母さんは嬉しそうだ。 「はい、じゃあできたから食べましょう」    できあがったハンバーガーとポテトとジュース。それをベランダの脇に並べて、窓を開けて夜空を眺めながら食べる。月が綺麗だった。毎年、お母さんはこの時期になると手作りのハンバーガーを用意してくれる。ハンバーグにレタス、そして大きな目玉焼きが中に入っている。特製のソースと絡まって最高の味だ。 「うん! 美味しい! 今年も最高だよ」  お父さんは満面の笑みでハンバーガーを食べている。口の周りにソースを付けて。 「ほんとに子どもなんだから」  それを丁寧に拭ってあげるお母さん。やっぱり嬉しそう。 「俺はさ、母さんが作ったこの月見バーガーを食べると、ああもう秋だなぁ、って毎年思うんだよ」 「なにそれ。それじゃあ、私が季節を動かしてるみたいじゃない」 「ははは、確かに」  お父さんの表情を見て、わたしは気がついた。結局、こんなことでいいのかもしれないということに。明確にいつまでが夏で、いつから秋になるかなんて誰にもわからない。それなら、お父さんが言うみたいに月見バーガーを食べた日から秋がはじまる、そんな感じでいいんじゃないかな。  月見バーガーの味が、夏の終わりと秋のはじまりを知らせてくれる。  先生もこれで納得してくれるかな。わたしに出せた答えはこんなものしかないのだけれど。 「その考えいいじゃないか」  メタンガス先生もたぶん、そう言ってくれるはずだ。
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