夏の終わりの会

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 みんながわたしに注目している。視線が集まってきて、心臓がドキドキドキドキ。こういうのが苦手なわたしは、「えっと、その」としか言えない。 「先生、菜花さんがかわいそう。あんまり責めてあげないで」  神無月さんのフォローが逆に辛い。 「なにか感じたことがあったら聞かせてほしいんだ。これはクラス全員の問題でもあると先生は思ってる。菜花さんはどう思うかな?」  少しはにかんだ表情でこちらを見つめる先生。先生のその優しい微笑みは部屋全体を温めてくれるような気がした。 「わたしは……」  頭の中を必死に回転させる。どうしよう、どうしよう。如月くんみたいに正直に言えるような勇気はわたしにはなかった。そのとき、ふとおばあちゃんに言われた言葉を思い出した。 「えっと、わたしは、お彼岸を参考にすればいいのかなって思います」 「お彼岸か、なるほど」 「暑さ寒さも彼岸までっていうぐらいだから、お彼岸を過ぎたら秋っていう風にしてもいいんじゃないかなって」 「よく知ってるね。確かに、お彼岸は一つの基準になるよな。みんなはもうお墓参りとかに行ってなんとなく知ってる人も多いんじゃないかな。  お彼岸っていうのは、まあ仏教用語ではあるんだけど、ご先祖様を供養する日とされている。春と秋の二回あって、その前後三日を含む七日間のことをいうんだ。春分の日と秋分の日、この七日間を過ぎると季節が移り変わると言われている。だから昔から、暑さ寒さも彼岸までと伝えられているわけだな。これを当てはめると、今年の秋分の日は九月二十三日。彼岸が明けた九月二十七日からが秋ということになるな」 「え、てことはもうそれは過ぎてるから今は秋?」 「そうなるよね。よーし決まり。ありがとう菜花さん」  神無月さんがわたしを見て微笑んでいる。なにか特別なことをしたわけでもないけど、感謝されてなんだか嬉しかった。
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